国際問題 外交問題 国際政治|e-論壇「百花斉放」
ホーム  新規投稿 
検索 
お問合わせ 
2009-02-16 10:23

(連載)オバマとジェファソン(1)

角田 勝彦  団体役員・元大使
 1月20日の就任式で、リンカーンが1861年の就任宣誓で使用した聖書を利用したことが示すように、オバマが、南北戦争で分断した国家を結束させたリンカーンに私淑していることは、よく知られている。しかし、彼のイメージは、「奴隷解放の父」リンカーンよりも、独立宣言の起草者である第3代大統領トーマス・ジェファソンを想起させる。「自由の使徒」と呼ばれたジェファソンは、米国を人類最善の希望を担った「自由の帝国」とみなし、啓蒙的精神に則り徹底的に自由主義を追求したが、自党リパブリカン党内外の激烈な選挙戦を経て、1801年に大統領に就任した後は、それまでの方針を改めて現実路線(ナポレオン1世からのルイジアナ購入の例)へ転回した。

 また、彼は、賢明と謙虚さのない「自由の帝国」は独善以外のなにものでもないとして、大統領就任演説で「賢明でつつましい政府」を訴えた。オバマは、就任式典の公式テーマに、リンカーン演説から「自由の新たな誕生」を選定したが、地味で落ち着いた演説を行い、2月6日には、そのブレーン機関として、足元の経済危機対応から長期的な米競争力の回復策まで、賢人が総合的な政策を練る場となる「経済回復顧問委員会」を発足させた。

 ジェファソンは、個人的にも華美な装飾を嫌い、儀礼の簡素化につとめたことで有名である。オバマも、就任式(史上最大の200万人弱参加)はともかく、前政権の格式張った執務体制を改変しているようである。普通のドレスとデザイナー・ドレスを使い分けるミシェル夫人の才能も有名である。なお、ジェファソンは夫人の没後、混血黒人奴隷のサリー・ヘミングスとの間に子どもをもうけている(当時はスキャンダルとして隠されていた)。

 さて、オバマ政権の掲げる「変革」路線は、相次ぐ政府高官の納税漏れ問題(ダシュル元上院院内総務は厚生長官就任辞退)や政策の違いなどを理由にする共和党議員の商務長官就任辞退などの小波乱はあったものの、内政・外政の両面で、就任後の4週間でかなりの進展を見せている。1月の米失業率の7.6%への悪化を受けて、オバマは「今迅速に動かなければ、経済危機が国家的破局になる」と国民に訴え、2月13日、大型(約7870億ドル)景気対策法案の可決にこぎつけた(バイ・アメリカン条項は残ったが、国際協定に反しないように運用すると規定された)。

 2月10日に発表されていた金融安定化策(柱は新たな資本注入と官民で作るファンドによる不良資産の買取り)は、不良資産の買取り規模(当初5000億ドル)や価格決定の先送りなどが市場の失望を招き、株価の下落を招いたが、14日、ガイトナー米財務長官が初めて参加したG7は、雇用と成長を支えて金融部門を強化するため、財政、金融両面で「各国が協調してあらゆる政策を総動員する」ことで合意し、金融政策では金融機関の資本増強のほか、不良資産の抜本処理など追加的な措置を講じる方針を確認した。(つづく)
お名前は本名、またはそれに準ずる自然な呼称の筆名での記載をお願いします。
下記の例を参考にして、なるべく具体的に(固有名詞歓迎)お書き下さい。
(例)会社員、公務員、自営業、団体役員、会社役員、大学教授、高校教員、大学生、医師、主婦、農業、無職 等
メールアドレスは公開されません。
ただし、各投稿者の投稿履歴は投稿時のメールアドレスにより抽出されます。
投稿記事を修正・削除する場合、本人確認のため必要となります。半角10文字以内でご記入下さい。
e-論壇投稿の際の注意事項

1.投稿はいったん管理者の元へ送信され、その確認を経てから掲載されます。
なお、管理者の判断によっては、掲載するe-論壇を『百花斉放』から他のe-論壇『議論百出』または『百家争鳴』のいずれかに振り替えることがありますので、予めご了承ください。

2.投稿された文章は、編集上の都合により、その趣旨を変えない範囲内で、改行や加除修正などの一定の編集ないし修正を施すことがありますので、予めご了承ください。

3.なお、下記に該当する投稿は、掲載をお断りすることがありますので、予めご了承ください。

(1)公序良俗に反する内容の投稿
(2)名誉や社会的信用を毀損するなど、他人に不快感や精神的な損害を与える投稿
(3)他人の知的所有権を侵害する投稿
(4)宣伝や広告に関する投稿
(5)議論を裏付ける根拠がはっきりせず、あるいは論旨が不明である投稿
(6)実質的に同工異曲の投稿が繰り返し投稿される場合
(7)管理者が掲載を不適切と判断するその他の理由のある投稿


4.なお、いったん投稿され、掲載された原稿の撤回(全部削除) は、原則として認めません。
とくに、他人のレスポンス投稿が付いたものは、以後部分的であるか、全部的であるかを問わず、いかなる削除も、修正もいっさい認めません。ただし、部分的な修正については、それを必要とする事情に特別の理由があると編集部で認定される場合は、この限りでありません。

5.投稿者は、投稿された内容及びこれに含まれる知的財産権(著作権法第21条ないし第28条に規定される権利を含む)およびその他の権利(第三者に対して再許諾する権利を含む)につき、それらをe-論壇運営者に対し無償で譲渡することを承諾し、e-論壇運営者あるいはその指定する者に対して、著作者人格権を行使しないことを承諾するものとします。

6.投稿者は、投稿された内容をその後他所において発表する場合は、その内容の出所が当e-論壇であることを明記してください。

 注意事項に同意して、投稿する
記事一覧へ戻る
公益財団法人日本国際フォーラム