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2009-06-16 09:17

(連載)武器輸出三原則を緩和・解消せよ(2)

高峰 康修  岡崎研究所特別研究員
 一点目に関しては、例えば、ミサイル防衛システムに必須の迎撃ミサイルPAC3の後継であるMEADSの米・独・伊等の共同開発に我が国は加わることができなかった。また、現在、重要課題でありながら迷走している次期主力戦闘機(F-X)選定問題でも、その候補の一つであるステルス戦闘機F35は、米英加豪など9か国が共同開発しているが、これも武器輸出三原則のせいで、日本は参加の検討さえしていない。米国以外に武器技術が供与できないとしているので、米国以外の国が参加する共同開発プロジェクトには我が国は参加できないのである。しかし、武器が高度化し、膨大な予算と高度な技術を要する、現在の情勢下にあっては、複数の国により共同開発を行い、少しでもコスト等の負担を下げるのが国際的な大きな流れである。もし、共同開発に参加せず、製品だけを輸入するとなれば、共同開発参加国の調達が完了した後に、やっと導入できることになるので、導入時期が遅れる上に、調達費用も割高になる可能性が高い。

 次に、現行の武器輸出三原則は、我が国の防衛産業を衰退させており、極めて危険なことである。防衛産業のカスタマーは自国または他国の政府である。しかし、自国政府による調達だけでは、採算がとれないものである。しかも、我が国は、防衛費の削減という悪条件が重なって、防衛産業の経営を著しく悪化させてきた。これで、武器を輸出できないとなれば、日本の防衛産業の経営は悪化しないほうが不思議である。現実に、防衛省の調査では、この5年で、戦車関連企業35社と戦闘機関連企業20社が事業撤退や廃業をしたという。防衛力の根幹をなす技術や生産基盤は自国で維持しておかなければ、国の安全保障は砂上の楼閣と言っても過言ではない。いたずらに対米独立を叫ぶ論調には到底賛同できないが、こと防衛産業に関しては、過度の対米依存は危険である。それは、FX選定問題ひとつとってみれば明白なことであろう。

 以上のように、武器輸出三原則の現行解釈は極めて重大な弊害を持つ。これに対して、自民党国防部会・防衛政策検討小委員会の今回の提言は、米国以外の国との装備の共同研究・開発を認めるよう求めるとともに、武器輸出禁止は、テロ支援国、貿易管理の不十分な国、国連決議による禁輸対象国、紛争当事国に限ることを提案している。今回の提言は、要するに三木元首相の不適切な解釈を廃棄し、佐藤栄作元首相による本来の解釈に戻るということである。現在は「共産圏」が事実上消滅したので、その代わりに「テロ支援国家」が入ったと考えればよい。全く妥当な内容であり、是非とも実現していただきたい。

 ただ、武器輸出三原則は、誤った解釈により、これまで我が国の防衛政策に「暗黒の歴史」をもたらしてきたので、名称や内容を手直しして心機一転を図ることを提言したい。自民党国防部会・防衛政策検討小委員会の提言に加えて、上で述べたような多国間での共同開発を推進することや、わが国の防衛産業を保護・育成すべき旨を加えて、「武器輸出・開発ガイドライン」のようなものに発展的に解消してはどうだろうか。武器輸出三原則は、いわば後ろ向きの原則であったが、もっと積極的な前向きの姿勢を打ち出すことにより、我が国の防衛政策にとってプラスの原則にすることができると考える。(おわり)
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