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2009-07-03 10:52

ドル離れの動きに過度な懸念は不要

塚崎 公義  久留米大学准教授
 IMFがSDR建て債券を発行し、中国などが購入することになった。加えて中国は、G8に対してドルに代わる国際準備通貨について協議するよう要請したようだ。米国の経常収支赤字の大きさに着目して「ドル暴落」「ドルの信認の喪失」などを懸念する声は、従来から聞かれていた。今回は、米国経済の比較優位産業と見られていた金融部門が崩壊した後であり、世界最大の外貨準備を持つ中国が具体的な行動に出ているだけに、「ドル離れ」の動きを懸念する向きも少なくないようだ。しかし、過度な懸念は不要である。

 ドルの準備通貨としての役割は、低下していくかもしれない。しかし、国際分散化投資は自然なことであり、各国の外貨準備の通貨が多様化したとしても、必ずしもドル体制の弱体化を意味すると考える必要は無い。一方で、世界の貿易がドルで行なわれている状況は容易には変化しないであろう。ユーロや円が地域的な貿易に用いられる事はあっても、世界的に広く用いられることは考えにくいからである。この点について、詳しくは拙稿(http://www.tsukasaki.net/report/report0907.html)を御参照いただきたい。

 貿易通貨がドルであれば、各国がドル暴落を回避するインセンティブを持ち、万が一の場合にはドル買い介入などによってドルを守るであろう。したがって、準備通貨としてのドルの地位が低下しても、米国の経常収支赤字などによりドルの輝きが鈍っても、世界はドルを支えていくことになるのである。それを知っている市場は、安心してドルを購入するため、実際にはドル暴落の危機も生じないかもしれない。

 中国などの動きは、米国一極集中時代の終焉を印象付けて、新興国のプレゼンスの高さをアピールするパフォーマンスである。ドルの地位を押し下げようという意図はなく、むしろドルが暴落しないように慎重に事を運ぶはずである。ドルが暴落すれば、対米輸出依存度の高い中国などは、甚大な被害を受けることになるので、そうしたリスクを冒してまでパフォーマンスに興じる筈は無いからである。こうした事を総合的に考えると、対応を求められたG8としては、超長期的な検討課題であるとして、冷静に対処すればよいと思われる。
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