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2009-07-07 09:46

(連載)対馬海峡等の領海幅を12海里にせよ(1)

高峰 康修  岡崎研究所特別研究員
 宗谷、津軽、対馬(東水道、西水道)、大隅の5海峡は、特定海域と呼ばれ、領海の範囲は海岸線から通常12海里であるところ、一部を3海里にとどめて、中央部を公海として残している。このような措置がとられている理由に関して、政府は、「海洋国家及び先進工業国として、国際交通の要衝たる海峡における商船、大型タンカー等の自由な航行を保障することが、総合的国益の観点から不可欠であることを踏まえたものである」とする答弁書を6月30日に閣議決定した。しかし、この答弁書では、全く理由を説明したことになっていない。

 5つの特定海域は、国連海洋法条約の規定に従えば、明らかに「国際海峡」に相当する。国際海峡とは、公海又は排他的経済水域の一部分と公海又は排他的経済水域の他の部分との間にある国際航行に使用されている海峡(国連海洋法条約第37条)のことである。国際海峡においては、同条約第38条において、通過通航権の制度が定められている。通過通航権は、領海を12海里にすると当該海峡に公海部分がなくなってしまう場合に、迅速な通航を条件に船舶及び航空機の通過を認める制度である。

 したがって、国連海洋法条約に定められた通常の国際海峡の制度を用いれば、政府答弁書にある「国際交通の要衝たる海峡における商船、大型タンカー等の自由な航行を保障すること」は満たされる。むしろ、逆に、そのような自由な航行を認めよという要請から出来た制度が国際海峡の制度である。それゆえ、海上交通の要衝にあたる海峡の領海幅を3海里に制限して、公海部分を残し、自由な航行を保障したというのでは、全く答えになっていないのである。

 特定海域の設定理由は、領海幅を12海里にしてしまったならば、海峡全体が領海となり、非核三原則との関連で、核兵器を搭載した米軍の艦船が当該海峡を通過した場合に、核兵器の領海への「持ち込み」に当たってしまうからであろう、と推定されてきた。先日、村田良平・元外務次官が「米国との間で核持ち込みの密約があった」と報道各社の取材に対して答え、大きく取り上げられている。その中で、村田・元次官は、特定海域の設定に関しても「核兵器を搭載した米国艦船が日本の領海を通らずに海峡を通過できるようにする政治的措置だ」という見解を示している。村田・元次官の見解表明により、従来からの推定にはより強い裏付けができたと言える。政府見解を維持するのは極めて困難になったと言わざるを得ない。(つづく) 
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