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2009-07-08 09:33

(連載)対馬海峡等の領海幅を12海里にせよ(2)

高峰 康修  岡崎研究所特別研究員
 さらに、この特定海域の制度は、中央部に公海を残していることにより、大きく国益を損ねた可能性がある。もしも国際海峡として領海幅を12海里にしていれば、外国船舶は通過通航権を認められるが、国連海洋法条約第40条の「外国船舶(海洋の科学的調査又は水路測量を行う船舶を含む)は、通過通航中、海峡沿岸国の事前の許可なしにいかなる調査活動又は測量活動も行うことができない」という規定により、事前通告なしの外国船舶による海底調査・測量活動が明確に禁止されたはずである。しかし、我が国特有の特定海域の制度では、公海部分が残るので、そこで外国船舶も海底調査・測量を合法的に行うことができる(ただしEEZ内に当たるので全く自由というわけではない)。

 中国の情報収集艦が2000年に、対馬海峡を通って日本海を北上し、さらに津軽海峡を経て太平洋岸を南下し、日本列島を一周する形で情報収集したことがある。中でも、津軽海峡は2日間かけて一往復半し、海峡地域の通信情報収集や海底地形調査などを詳細に実施したとされる。これは中国海軍が西太平洋に進出するという大戦略の一環としての海洋調査のさきがけだったと考えられる。こんなことを許してしまった原因の一つに、公海部分を残した特定海域の制度があると思われる。2001年に日中間では相手国のEEZ内で調査活動を行う場合には事前通告を行うことが約束されたので、少なくとも建前上は、特定海域で中国が海洋調査活動を自由に行うことはできなくなったが、公海部分が残っている以上、軍艦が示威的に迅速かつ継続的でない航行を行うことは依然として可能である。こういう事態を防ぐためにも、特定海域の領海幅を3海里から通常の12海里に改め、通常の国際海峡として位置づけるべきである。

 政府は、核兵器の持ち込みに関する密約はなかったという立場を貫いている。そして今後とも特定海域を核兵器を搭載した米艦船が非核三原則に制限されずに自由に航行できるようにしつつ、非核三原則を堅持したいのであろう。しかし、村田・元外務次官の証言に加えて米国の公文書でも、すでに核兵器持ち込みの密約が明らかにされている。政府見解はもはや維持するのは困難であるし、核の傘の維持にとって有害であるから、改めるべきである。今さら領海幅3海里の特定海域を設定し続ける意味があるのか疑問である。

 非核三原則との関係では、「密約」を認めて、核搭載米艦船の寄港や領海通過は問題なしとすれば、国際海峡の制度を採用しても何の問題も生じない。すなわち非核三原則の緩和である。そこまで踏み込むのは抵抗があるというのならば、さしあたって5海峡を国際海峡であるとした上で、「核兵器を搭載した米艦船の国際海峡の通過は核兵器の持ち込みに当たらない」とすればよい。国際海峡も領海には違いないが、国際法上特別の地位を与えられているので、例外扱いするのも抵抗が低いと思われる。ただ、「米国が事前協議を呼び掛けてきていない以上、核は持ち込まれていない」という日本政府の強弁はいずれ修正を迫られるであろうから、やはり余計な条件をつけずに国際海峡の制度を採用するべきであろう。(おわり)
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