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2009-08-19 07:44

「非核3原則」法制化は、日米安保崩壊に直結する

杉浦正章  政治評論家
 民主党代表・鳩山由紀夫の答弁を聞いた社民党党首・福島瑞穂のおばさん顔が、ゆがむように“ほくそ笑んだ”。筆者はわが耳を疑った。党首討論で鳩山が非核3原則の法制化検討を明言したのである。日米安保体制の根幹を崩壊させかねない問題が、次期首相と目される人物からやすやすと発言された。安保反対が党是だった旧社会党の流れを汲む社民党は、自らの反米路線に民主党を引きずり込んだことになる。本来なら「3原則法制化」だけで総選挙のテーマにすべき問題である。鳩山はこれだけの“決断”をしたなら、“安保隠し”のマニフェストを改め、堂々と「法制化検討」を選挙のテーマとすべきである。事の発端は核艦船の寄港・領海通過を認める日米密約の存在が、元駐日大使・ライシャワー証言に続き、元外務次官・村田良平のインタビューで確定的になったことである。問題はこれに「持たず、作らず、持ち込ませず」の非核3原則が密接不可分に絡むことである。

 村田証言は、ある意味で政府にとってチャンスであった。密約の存在を追認し、「持ち込ませず」の方針を北朝鮮の核ミサイル製造、中国の軍備拡大に合わせて見直し、米国の核の傘に依存せざるを得ない戦略上の弱点を補う絶好の機会と受け止めてもよい問題であった。しかし総選挙前にドラスティックな転換が出来ない事情があるのだろう。もともと非核3原則は国会決議であり、「持ち込ませず」には法的な拘束力はないとされている。ところが社民党は、そのマニフェストに最近新たに「国是である非核三原則を厳守し、法制化を図る」という項目を加えた。あきらかに安保反対の社会党左派路線主導の方針だ。問題は、この連立相手の主張を鳩山が、福島の質問につられて、「社民党と協力関係を築く中で、非核3原則の法制化に関しても検討をしていきたい」と応えてしまったことだ。

 鳩山は、法制化の意味するところを全く理解していない。法的拘束力がないまま、あえてあいまいにしてきた問題を、法制化したらどうなるか。筆者は、ワシントン特派員時代の1974年10月にジーン・R・ラロック国防情報センター所長の「日本に寄港する米軍艦船が核兵器を保有していないとは、軍事の常識としてあり得ない」という証言を記事にして以来、この問題に関する米国の立場を研究しているが、生やさしいものではない。社民党が主張するように非核3原則が日本の国是だとすれば、「核の存在については、あるともないとも表明しない」が米国の戦略上の国是だ。施設及び区域の使用を認めた安保条約第6条の実施に関する交換公文には「重要な装備の変更」は事前協議の対象となることが規定されている。核持ち込みを意識した条文だが、この事前協議が行われたことはかってない。つまり核兵器搭載の米艦船は自由に寄港し、領海を通過できているのである。

 とすれば民主・社民両党が「法制化」した場合どうなるか。米国の艦船が寄港・領海通過するたびに、すくなくとも事前協議を申し入れなければならない。法律を厳格に運用するためには「臨検」をすることになる。これに米国が応じるだろうか。北の核ミサイルが飛来するような緊急時に、「臨検」はあり得ない。警官に手錠をはめて、殺人未遂犯を逮捕できるか。要するに、法制化は日米安保体制そのものを崩壊させるところに、狙いがあるのである。社会党に先祖返りして、戦後の安保論争で敗退した“恨み”を晴らそうという社民党の深い思惑に、まんまと何も知らない鳩山が乗せられている構図が出来つつあるのだ。安保論争を避けて通る民主党の選挙戦の危険性がここに明白となっている。民主党右派が静かだが、どうしたのか。選挙に勝てば、主義主張はどうでもよいのか。安保を知らない「首相」に喜ぶのは、中国と北朝鮮だ。
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