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2009-09-07 09:32

(連載)温室効果ガス削減目標の設定は慎重に対応せよ(2)

高峰 康修  岡崎研究所特別研究員
 それでは、どうするのが最も適切であろうか。私は、鳩山氏は「まずは自公政権が立てた『2005年比15%削減』を着実に達成する」と宣言するべきだと強く主張したい。この目標は「真水」だけしか含んでいないことに注目すべきである。EUは1990年比で20%削減という中期目標を掲げているが、このうち「真水」部分は5%程度にしか相当しないことが、日本政府の調査により明らかとなっている。残りは、EUの東方拡大による「マジック」や排出権購入などである。したがって、自公政権が立てた中期目標(1990年比マイナス8%)はEUの目標と比べて何ら遜色がないばかりか、むしろ上回っているのである。

 次にとるべき戦略としては、民主党案はその全てが「真水」だと言っているわけではないのだから、自公政権の目標を上回る分は、国際交渉において条件闘争として利用する価値が出てくる。それはどういうことかというと、クリーン開発メカニズム(CDM)、共同実施(JI)、グリーン投資スキーム(GIS)、森林吸収分の排出枠への繰り入れなど、京都議定書で認められていた「京都メカニズム」を存続させるとともに、さらにそれらの利用を拡大することを容認することと引き換えに、高い排出量削減目標にコミットする用意がある、という姿勢を明確にするのである。特に、森林吸収分の繰り入れは強く主張すべきである。

 このようにすれば、排出量の削減目標は上積み可能である。ただし、この場合でも上限はせめてEUと同じ1990年比マイナス20%にとどめるべきであって、25%は行き過ぎである。おそらく、1990年比で、自公政権案のマイナス8%とEU案のマイナス20%の間あたりに落ち着くはずである。また、国際的衡平性を考慮した結果、上積み量が小さくなったとしても、それをきちんと説明すれば、国民はむしろ支持するであろう。ただ、1990年比25%削減という、実現可能性のほぼゼロに近い公約を立てたことに対する、反省の表明と説明責任は生じることになる。

 民主党の削減案は、明確なシナリオが示せていない。削減目標は「大きければ、大きいほどよい」というものではなく、低炭素社会作りとそれを通じた成長を促すものでなければならない。そのためには、過大で実行不可能な目標は、かえって阻害要因になる。また、初めから過大な目標を提示してしまうことは、交渉術としても拙劣である。未達成に終わったときの我が国の国際社会におけるイメージも大いに低下する。新政権には「1990年比マイナス25%」にこだわらず、早急に現実的な低炭素社会作りのシナリオを描いて、国際交渉には高い戦略性をもって臨んでいただきたい。無思慮に高い削減目標を掲げ、国民生活を破壊することは、決して許されないことである。(おわり)
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