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2009-09-16 07:49

地雷原を行く主要閣僚たち

杉浦正章  政治評論家
 テレビでお馴染みの“役者”がよくそろった。まるでオールスターキャストでポピュリズムの極致の様相だ。9月16日に発足する3党連立政権の顔ぶれを見れば、右から左まで、また親小沢から反小沢まで、すべてをそろえた挙党体制に、鳩山由紀夫が腐心したことが分かる。しかし主要閣僚のまさに“革命的”な信条や発言と、当該省庁とのかかわり合いを見ると、深刻な矛盾が山積していることが分かる。国家戦略局、外務、財務、郵政・金融、国土交通などで、従来の政策との亀裂をどうするか、うまくいけば「革命成功」だが、うまくいかなければ政権直撃の地雷原を行くがごとしだ。まず問題は菅直人が担当する国家戦略局が他省庁にとって“屋上屋”となろうとしていることだ。霞が関改革論の“旗手”菅は、副総理も兼務しており、その高揚感は大変なものがあるのだそうだ。菅は戦略局を予算の骨格を作り国家ビジョンの策定に当たるというマニフェストの規定通りに動かして、政策上の主導権を握ろうとしている。もちろんポスト鳩山への野心があるとされている。

 これに対して、外相になる岡田克也は早くも「すべてを神のごとく決める局ではない」と反旗を翻し、財務相に予定される藤井裕久も「最後は新財務相が決める」と反発。鳩山内閣の目玉商品であるはずの「戦略局」が、明らかに目の上のたんこぶとなって、浮き上がりつつあることを物語っている。閣内亀裂の発生源となり得る。もっとも藤井も財源節約説だけに、財務相として確実にツケがまわってくる。9.1兆円の「ばらまき政策」の財源を「節約で調達する」と公言してはばからない。藤井の根拠は「民間会社でも、社長が替われば1割程度の節約はしている」とアバウトな発想である。「毎年恒常的に節約から財源を調達することが不可能なことは、大蔵省出身者なら分かるはず」(財務相筋)というつぶやきとどう整合性を取るか。来年度予算案の年内編成も出来なければ、責任問題となる。

 問題なのは金融・郵政担当の亀井静香だ。早くも郵政社長・西川善文の自発的辞任を求めて意気軒高だが、郵政と金融を自らが担当する矛盾を全然理解していない。日本郵政グループ株売却を凍結する法案の早期成立で合意している3党の旗振り役でもある亀井が、民営化路線にブレーキをかければ、ゆうちょ銀行は金融改革の最大の目玉であっただけに、国際的にも影響が大きいのだ。早くも業界では「日本売り」がささやかれているほどだ。日本が改革路線を転換したと受け取られるわけだ。ウォール・ストリート・ジャーナルが15日、藤井裕久について「為替相場への介入を拒否する姿勢を示している」と報じて、強い懸念を表明している。あれこれ考えれば、鳩山の金融政策への理解度が分かる。早速亀井は、銀行への返済猶予(モラトリアム)導入を打ち出したが、業界には警戒感が広まっている。

 問題は外相・岡田克也の“脱米入亜”の原理主義の危険度だ。中国が「岡田外相」を歓迎する一方で、米国に懸念が生じているのをみれば容易に分かる。米国の「核の傘」からの脱却も主張しているが、これは、北朝鮮の核を意識して韓国大統領・李明博が賢明にも米大統領・オバマとの間で北の核脅威に対する米国の「核の傘」を再確認する旨の約束を文書で交わしているのとは、対照的である。先にも書いたが岡田原理主義は、自説に自信過剰となるあまりに、「理路整然と方向を間違える」ような気がしてならない。

 国土交通相とされる前原誠司も、大変な荷を負うことになる。まず八ッ場ダムの「建設中止問題」に直面する。水の供給と治水の恩恵を受ける流域1都5県が推進の立場であり、既に約3200億円が投入されている工事を中止出来るだろうか。また朝日新聞ですら社説で反対している高速道路の無料化も、北海道からはじめるというが、いくら国土政策に詳しい前原誠司でも、公約通りの実行は難しいだろう。このように主要閣僚は、まさに民主党の政策を形成してきた中心人物であり、野党時代は無責任でよかったが、現実の政治と政策の継続性に相反するケースばかりだ。無理矢理突撃すれば破たんを招く。いかにつじつまを合わせるかが最大の課題になっては、民意に反することになる。理想と現実のはざまで“また裂き”になる閣僚が続出することは間違いない。

 
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