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2009-10-15 09:39

(連載)「東アジア共同体」構想に対する米国の懸念(1)

高峰 康修  岡崎研究所特別研究員
 10月10日に行われた日中韓3国首脳会談で、鳩山由紀夫首相は改めて「東アジア共同体」構想を提唱し、3国首脳は、これを長期的課題であると位置づけた。といっても、構想の中身自体は相変わらず曖昧なままである。ただ、鳩山氏の「東アジア共同体」構想のイメージは、おぼろげながらではあるが伝わってくる。鳩山氏は、まずはFTAや金融・通貨・エネルギー・環境・災害救援といった分野から始めたい旨、9月の国連演説で述べている。そして、経済的な協力関係にとどまらず、「友愛」の精神に基づいたEU型のより深化した地域統合を目指しているようである。また、米国排除の動きがこの構想の最大の特徴でもあり、問題点でもある。

 10月7日には岡田外相が、「東アジア共同体」には米国を正式なメンバーとして加えない、と講演で明言している。以前から、「東アジア共同体」という言葉が出るたびに、米国は極めて神経をとがらせてきた。それは「米国をアジア太平洋地域から排除する動きは絶対に容認できない」からである。米国の世界戦略は、アジア太平洋地域に覇権を唱える国家の出現を許さず、そのためにアジア太平洋地域に軍事的にも経済的にも深く関与するというものである。

 こうした背景があるため、9月の日米首脳会談後にも米政府高官が日本政府に対して懸念を伝えてきている。この問題は、それほどセンシティヴな問題なのである。鳩山政権は、米国の懸念と反発に対する理解が、あまりにも不足しているのではないだろうか。10日の日中韓首脳会談で、鳩山首相は東アジア共同体構想に関する文脈で、「今までややもすると米国に依存しすぎていた日本だった。日米同盟は重要と考えながら、一方でアジアをもっと重視する政策を作り上げたい」と、決定的な「失言」をしてしまった。

 これでは、米国側は、鳩山外交の方針は「脱米入亜」で反米的であり、「東アジア共同体」構想は米国排除だ、と理解せざるを得ない。鳩山首相も一応は、日米同盟は基軸であると言ってきたし、今回も「日米同盟は重要」と言ってはいるが、もはや鳩山氏がいくら「日米同盟は重要」といっても、そんなものは枕詞に過ぎず、何の実質的意味も持たない、と受け取られても仕方がない。米国排除と認識されてしまった「東アジア共同体」構想を執拗に唱えるということは、そういうことである。米国側からの再三の懸念の伝達にも関わらず、どうしてこのような対応をするのか、全く理解に苦しむ。こうなると、米国が、アジア太平洋地域に関与するためには、日本など黙殺して、中国と直接対話したほうがましだという考えに傾く可能性さえある。(つづく)
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