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2009-11-09 07:41

日米関係をもてあそぶ岡田外相の嘉手納統合案

杉浦正章  政治評論家
 外相・岡田克也の11月8日の民放番組での発言を子細に分析すると、普天間基地の移転先は結局日米両政府が合意したキャンプ・シュワブ沿岸部(同県名護市)に移設するという現行計画を受け入れざるを得ない、との感をますます強くした。あきらかに岡田は、普天間飛行場を嘉手納基地に統合するという実現不可能な案を、隠れ蓑に使っている。「日米対等の立場」から検証した上で民主党政権が決めた、という実績作りを目指しているのであろう。しかしそうなれば芝居の底が割れるうえに、メンツだけにこだわった外交の在り方が問われることになる。

 岡田はまず普天間と嘉手納の統合案について「辺野古以外に嘉手納統合が案になり得るか検証している」と述べた。これはとりもなおさず辺野古案と嘉手納案が岡田の胸の中に並列的に存在することを物語ってしまっている。検証するまでもなく、統合案は米軍が技術的に不可能と真っ向から反対しており、県知事も地元も反対している。一番実現度が低い案である。これを“検証”しても、出る結論は決まっている。岡田の狙いは「日米対等」を言う以上は、オバマ訪日で結論を出さずに“抵抗実績”を示した上で、ぎりぎりの選択をしたことを、民主党内外に示す必要があるのだろう。「先の総選挙で『駄目』という人が4人勝って出てきたのだから、それを踏まえれば、少なくとも検証しなければならない」と述べているが、語るに落ちた発言だ。なぜなら「少なくとも検証」と発言したからだ。つまり実績作りだ。

 更に重要なのは、「選挙が挟まれば頓挫する」とも発言した。選挙とは来年1月の名護市の市長選のことだ。鳩山政権が実現の見通しもないまま「県外・国外移転」を掲げたため、沖縄県内では反対派や県外移転論が勢いづき始めており、市長選でも反対を掲げた候補が当選してしまう可能性がある。そうなれば直ちに国政を市長選が直撃して、事態はますます混迷を深めてしまう。岡田発言はこれを避けたい意向と受け取れる。最終決定のめどについて「来年度予算にどういうものを計上するか、12月いっぱいが区切りだ」と年内決着を目指す構えを見せた。「年を越えてしまうかも知れない」とも述べたが、これはあくまで年内決着を目指した上で、ずれ込む程度の意識だろう。

 このように岡田の発言をぎりぎりまで分析すると見えてくるものは、日米合意に向けて迂回(うかい)作戦を取っているとしか思えないことだ。しかし先送りに何のメリットがあるかだ。鳩山政権は普天間移転問題に加えて、インド洋における給油の中止、在日米軍の思いやり予算の削減など、同盟関係を後退させることばかりに専心している。明らかに党内左派や社民党を意識しているものとみられるが、日米関係をもてあそぶと、その代償が極めて高く付くことを知るべきだ。当面の鳩山・オバマ会談は給油に変わる莫大(ばくだい)なアフガン支援策の“小切手外交”で切り抜けられても、構造的な同盟関係に傷をつければ、手を叩いて喜ぶ国々が周辺にあることを銘記すべきだ。


 
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