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2009-11-14 14:19

南欧の旅から見えた「国境なきヨーロッパ」

吉田 康彦  大阪経済法科大学客員教授
 10月中旬から下旬にかけて、大西洋岸のワインの産地ボルドーを起点にフランス南西部のミディ=ピレネー地方、ラングドック地方、さらにバルセロナ中心のカタロニア地方に足を延ばし、錦秋の南欧の旅を楽しんできた。奈良県で悠々自適の年金生活を楽しむ旧友夫妻と2家族4人のレンタカーによるドライブ旅行だった。1970年代にジャーナリストとして、80年代に国連職員として、通算13年間ジュネーヴとウィーンに滞在していた私にとって、この地方は気候温暖、人情素朴、グルメ趣好を満足させてくれる豊穣の地として、とりわけ印象深い。ただし20年以上を経て再訪してみて、様変わりした点がいくつかあったので、ご紹介したい。

 第一に、この地方に、とくにイスラム教徒のアラブ人、アフリカの黒人が増え、サービス業従業員、肉体労働者の半数近くを白人以外の異民族が占めている印象を受けた。詩人ポール・ヴァレリーの故地セートは、あたかも地中海の反対側のアルジェリアかモロッコの港町のようだった。前々回のフランス大統領選挙で、外国人排斥を叫ぶ右翼政治家ジャン=マリ・ルペンが決選投票でシラク候補と争うほどの勢いだったのも首肯できる。

 第二に、ドライブしていて目に付いたのは、風力発電用の3枚羽根の風車があちこちに林立していたことだ。EU(欧州連合)は2020年までに全発電量の20%以上を風力・太陽光で満たす公約を掲げており、欧州各地には風車と太陽エネルギー集光用のシリコンパネルが目立つが、とくにスペインにおける自然エネルギーの普及はめざましく、ドイツに次いで欧州第2位の発電量を誇り、シェアはすでに全体の30%に達しているという。

 第三に、EU域内の地上では、国境が消滅したことだ。フランスからスペインに入国する際も、その逆も、税関と出入国管理の建物は存在して、国旗がひらめいているものの、税関吏と警官の姿はなく、あらゆるクルマがフリーパスで自由に往来していた。事実上国境は存在していない。これは地上を走ってみないとわからない。国境越えで変化するのは、標識の文字くらいだが、スペイン東部のカタロニア語はスペイン語よりフランス語に近いので、あまり違いがわからない。その典型が、仏西両国にはさまれてピレネー山中に息づいているアンドラというミニ・ステートだ。人口7万のアンドラは自由貿易国。首都アンドラ市には免税品を売る店が軒を並べ、活況を呈している。持参したデジカメが不調だったので、日本製の新品を購入したが、秋葉原より安く買えた。まもなくスキーシーズンだが、欧州各国からスキー客が殺到するらしく、新築のホテルと色とりどりのリゾート・マンションが山腹に立ち並んでいた。スイスよりも物価が安く、免税品が買えるというのがセールスポイントになっているようだ。日本の観光業者はアンドラ旅行をもっと宣伝すべきだ。空港も鉄道もなく、クルマでしか行けないのが難点だが、バルセロナから急行バスで4時間、1日に数便往復している。
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