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2009-11-18 07:46

「事業仕分け」劇場は財務省が演出

杉浦正章  政治評論家
 元アイドル議員や民間人がどうして専門知識を有する官僚を「公開処刑」できるのかといぶかっていたが、からくりが分かった。「仕分け人」たちは、財務省が作った“極秘の査定マニュアル”に基づいて発言、追及していたのだ。要するに、概算要求の無駄を洗い出すという行政刷新会議の「事業仕分け」は、「政治主導」ではなく、「官僚主導」のパフォーマンスだったのだ。筆者は、一時は民主党政権にしては画期的な対応と思っていたが、何のことはない官僚の手の上で踊っているに過ぎない。法的にも何の権限もなく、本格化する財務省の査定の下馴らしをしただけということになる。

 いやはや民間人の仕分け人が「私は国民を代表して出て来ているのだ」と発言したのには驚いた。誰が代表に“任命”したのだ。発足早々から法的根拠はどこにあるのかうさん臭いと思っていたが、ついに政府は「仕分け人」に法律上の職務権限がないことを認めた。自民党参院議員の世耕弘成の質問主意書に対して、11月17日の閣議で「行政組織ではなく、メンバーである評価者は官職に当たらない」とする答弁書を決定したのだ。行政組織でも、官職でもないとなれば、守秘義務はないし、結果責任は問われない。おまけに仕分けは進むが、結果がどのように反映されるか、必ずしも明確ではないのが実情だという。法的にはいい加減な偽装査定組織が実態だ。

 本来ドラマには不向きで地道な予算編成作業を、外国の諜報員も喜ぶ公開の場で行う理由はどこにあるのだろうか。朝日新聞の世論調査では、行政のムダを減らす取り組みを評価するが76%、官僚に頼った政治を改める取り組みを評価するが69%もの高率に達している。公開仕分け支持の流れだ。自民党の幹部まで乗せられて、「こらおもろい。新鮮だ」(参院幹事長・谷川秀善)と高く評価する者まで出てくる始末。完全に政権のパフォーマンスに乗せられてしまったわけだ。

 しかし、産経新聞や時事通信が報道するところによると、財務省事務局が事前に極秘の査定マニュアルを作成し、政治家や民間有識者など仕分け人に配布していたのだという。マニュアルは仕分け対象事業の問題点を列挙、各担当省庁の主張に対する反論方法まで具体的に説明する内容だそうだ。あらかじめ財務省が書いた“おんぶにだっこ”のシナリオに沿い、一部に民主党の独自色を加えたのだという。要するに“仕分け劇場”の演出者は何を隠そう財務省本体であったのだ。財務省は廃止を打ち出しやすい事業を列挙して、リストをつくり、仕分け人に“理論武装”させたわけである。財務省高官が「仕分けは予算編成の簡略化に役立つ。有り難い」と述べていたが、自作自演なら有り難いわけだ。仕分け人は釈迦の手のひらで踊る孫悟空を演じたことになる。

 もともとパフォーマンスとポピュリズムで政権の座についた鳩山内閣だ。前政権との違いを前面に出したいのだろうが、これでは金看板である“脱官僚”が泣くではないか。物珍しさも手伝って、マスコミが連日大きく報道するのは自由だが、法的根拠のない、しかも結果が必ずしも反映されない劇場政治に踊らされるべきではない。田舎芝居のような演技過剰にしては、効果も今ひとつだ。その証拠には、首相・鳩山由紀夫が「実現できなければ責任を取る」としてきたマニフェストを圧縮せざるを得ない状況に立ち至っている。潜在失業者が10%に達すると言われ、景気の二番底がささやかれる中で、必要なのは地に足の付いた景気対策だ。パフォーマンスに浮かれているときではない。
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