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2009-12-02 02:55

事業仕分けは本当に妥当なものだったのか

玉木 洋  大学教授
 山竹氏には、返答をいただいたことに感謝いたします。「事業仕分け」によって、事業自体に無駄があるものを適切に選別しうるのであれば、それが実質的に意味ある良いことだという余地もあるのかもしれません。設置根拠や法的位置づけ、メンバーの選考など形式的部分での疑問も多々ありますが、実質的に有益な議論がなされて、その議論内容を参考にするということならば、全く妥当でないともいえないのかもしれません。しかし、実際には形式的のみならず、実質的にも疑問があるのが、今回の事業仕分けではないでしょうか?結局歳出削減を迫られている財務省と、政治的・政局的に「無駄な事業を洗い出すことによってお金を浮かす」という形を取らざるを得ない鳩山政権との思惑が一致したパーフォーマンス、という色彩が濃厚なのではないかと、私は考えています。『外交フォーラム』に限って言えば、山竹氏のご見解のように無駄であるという可能性を全く否定するものではありませんが、仮にそうだったとしても、そのことにより今回の事業仕分けそのものを全体として正当化することにはならないと思います。

 なお、民間の株式会社が作成しているものを買い上げるという方式をもって「当然に無駄である」とまではいえないと思います。また、「迎合的」と言われますが、外交政策についての情報や議論を政府として広報する必要があるから買い上げるのですから、その内容が政府の政策に矛盾しない方向のものであることも、ある意味で当然でしょう。逆に「作成内容は政府のコントロール外」と言われますが、民間会社がどのような内容で出版しようが自由ですが、外務省が編集協力して出す雑誌であり、また外務省の購入趣旨と矛盾するようなものになれば、翌年からは購入しなければ良いのですし、そういう状況の中で内容を適切に検討して出版されるでしょうから、ご指摘のように「迎合的」になっているのでしょう。ですからコントロールはできているのでしょう。このように、民間が発行するものだから政府の広報としての意味がない、ということも単純には言えないでしょう。

 官僚が言うであろう意見と内容が一致することをもって「情けない」という批判をされるのではなく、実質的な内容面での議論をされることを望みたいと思います。国会議員は国民の利益に反することをすれば、すぐに次の選挙で落選する危険を抱えてもおり、選挙によって国民の負託を受けています。審議会は、その設置自体が法律に根拠を有しており、その委員は、法的な根拠をもとに、専門性や利害関係者のバランス等が考慮された上で選任され、専門性や関係当事者の事情を踏まえて慎重な議論を重ねて職務を遂行します。「審議会が隠れ蓑」という報道が良くなされていたことがあり、実際審議会や審議会メンバーの数を減らす制度改正等も行われてきましたが、この事業仕分けに比較すればこれまでの審議会ははるかに正当性と妥当性を有していたと考えます。「猛威を振るった審議会」というのが、一体どのような審議会のどのようなことをについて言っているのか、分かりませんが、それと比較したとしても今回のものがどれほど良いのかということは、私には分かりません。仕分け人は法律上の位置づけもなく、メンバーの実質的な適性も十分審査されてたかどうか疑問があり、また審査過程も極めて短時間の議論によるものであり、形式的にも実質的にも正当性に疑問があると考えます。また、仮に『外交フォーラム』についての判断がたまたま正しい結論であったとしても、全体としてこの仕分け人や仕分け作業を正当化するには、それだけでは大変弱い根拠ではないかと思います。

 また、仕分け人の意見が尊重されることに憲法上問題がないとのお説ですが、誰の意見を参考にしても違法ではないかもしれませんが、この仕分け人が実質的には尊重されてしまうような重大な役割を担っているのにも関わらず、審議会等と比較しても設置の根拠が弱く、権限や責任が不明確で、メンバー選定や審議内容にも疑問があり、「尊重」といわれ、そして実質的にはその権威で削減をすすめるということにもなれば、それなりに問題点があると見ても良いと私は考えています。私は、憲法に基づき選挙を経た国会議員によって予算の審議が行われることや、憲法に基づいて内閣の下で各省大臣の指揮の下で行われる作業については、法治国家の一国民として(時として内容に異議があっても)従わなければならないと思っています。その過程では法律に基づいて明確に位置づけられた審議会等において、専門家や利害関係者等が議論して、国民の意向も組み上げられることが通常行われます。他方で、今回の事業仕分けは、内容だけでなく、手続き的にも問題があると考えます。事業仕分けこそが、むしろ、予算を削るための隠れ蓑になっているという色彩が強いものと考えます。
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