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2010-01-15 10:45

核軍縮進展の鍵を握る2010年

堂之脇 光朗  日本紛争予防センター理事長
 暮れの12月15日に東京で鳩山首相とラッド豪首相に提出された「核不拡散・核軍縮に関する国際委員会」(エバンス・川口委員会)の報告書を一読した。英文の本体だけで約230頁あり、同じくエバンス氏が中心となって13年前にまとめた「キャンベラ委員会報告書」の約5倍の長さである。2012年までの短期目標、2025年までの中期目標(核兵器の総数を米ロそれぞれ500発以下、全世界で2000発以下など)を設定し、その先の目標として「核兵器ゼロの世界」を掲げている。読み応えのある提言集であり、今後長年にわたり核廃絶への処方箋として参照されることになるであろう。

 他の類似の報告書とくらべ、不拡散体制強化の論議に大きな比重が置かれているのが、この報告書の特色であるが、核軍縮に焦点をしぼってみると、「インド、パキスタン、イスラエルも含めてすべての核兵器保有国は、核兵器のない世界に向けての努力を誓うべきである」とし、そのような世界が実現するまでは、核兵器国が同盟国のために「拡大抑止」を維持するのは当然との立場で一貫している。例えば、「拡大抑止」は「拡大核抑止」と同一ではないとしながらも、「アメリカの通常兵器能力が突出すると、他の核兵器諸国の核廃絶への抵抗も強まるので、通常兵器能力のバランスも必要である」としている。それでも、「化学兵器や生物兵器による攻撃を抑止するには、核兵器では均衡を失するので、圧倒的な通常兵器による対応で十分である」と論じ、さらには、「北朝鮮がその僅かな核兵器で自国の安全が保証されると考えるとしたら大間違いで、北朝鮮による無謀な挑発は自殺行為となる」と論じている。

 他方、米ロ両国大統領の任期第1期終了の2012年までの短期目標としては、START条約の更新、米国によるCTBT条約の批准、すべての核兵器保有国による「核兵器保有の唯一の目的は核攻撃の抑止である」との原則の承認などを提言している。START条約更新に関しては、昨年7月に両国の大統領間で核兵器の削減目標数などの大枠が合意され、調印は12月上旬の失効以前とされていた。しかし、検証制度などの細部についての交渉が長引き、新条約が発効するまでの間は既存の条約の精神で協力するとの暫定合意で今日に至っている。新条約が調印されても、発効には米上院による承認が必要であり、肝心なCTBT条約の上院での承認はその後の話で、「地平線上に暗雲」といった感じである。

 そもそも、本年5月のNPT運用検討会議の成功のためには、START条約更新が必須の条件とされ、CTBT条約の上院承認はその後とされてきた。ところが、START更新条約の上院承認には米国の「核政策レビュー」の完了が前提であり、こちらの作業完了も年末までと言われていたのが2月1日、さらには3月1日へと延期されている。そして、アメリカでは中間選挙で政権与党が議席を増やすのは容易ではないことから、11月の選挙前に米上院のCTBT承認を求めるとなると、時間的余裕は極めて乏しい。しかし、アメリカが積極的になったおかげで世界的に高まってきた核軍縮に向けての機運が、失われることの損失はあまりにも大きい。本年4月の米国主催の核セキュリティー・サミットとそれに続く5月のNPT運用検討会議の成功により、機運が一層高まり、「暗雲」が吹き飛ばされ、2012年までの短期目標達成に向けて進展することを望みたい。
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