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2010-01-16 22:24

日米外相会談を同盟の「手入れ」再開のきっかけにせよ

高峰 康修  岡崎研究所特別研究員
 12日にホノルルで開かれた、岡田克也外相とヒラリー・クリントン米国務長官による日米外相会談は、米海兵隊普天間飛行場の移設問題では、5月までに新たな移設先を含めて結論を出すとする日本側と、現行案での早期決着がベストだとする米国側の立場が噛み合わなかったが、「日米関係は普天間問題だけではない」という点で、ある程度共通理解が得られたように思われる。日米同盟は、両氏が強調したように、アジア太平洋の平和と安定に不可欠な「国際公共財」である。日米同盟から得られる利益は日米双方にとって、失うには余りにも大きすぎる。普天間移設問題をめぐる日本の態度が不誠実極まりないことは改めて指摘するまでもないが、日米同盟の重要さに鑑み、マクロな視点から日米同盟の深化に早く着手する必要性に合意したと言える。

 日米同盟の深化のための協議は、今年前半に日米2プラス2を開いて中間報告をまとめ、11月に来日予定のオバマ大統領との日米首脳会談で最終合意することを目指す。岡田外相は、1996年の橋本首相とクリントン大統領による日米安保再定義に代わるようなものを目指したいと言っている。重要な点は、日米双方が、日米同盟の深化のための協議の中で、アジア太平洋地域の安全保障情勢への認識、とりわけ対中認識を日米が共有する点で一致したことである。このことは、中国の軍拡に脅威を感じている周辺国にある程度安心を与えることになるであろう。

 ブッシュ前政権末期はアジア太平洋地域への無関心が目立ったし、オバマ政権もアフガンや対ロ「リセット」ばかりに熱心で、アジア太平洋軽視なのではないかという懸念が付きまとっていた。外相会談の場ではないが、クリントン長官は12日にホノルルで行った政策演説の中で、アジアの多国間協議に積極的に参加すること、地域の同盟国(日・韓・豪・タイ・フィリピン)との関係を基盤として、インド、中国、インドネシアなどとの関係を強化すると述べている。どの程度熱心に取り組むかは分からないが、米国がアジア太平洋地域へのコミットをさらに密にするという、望ましい政策を提示できたことは有意義であると評価するべきであろう。普天間移設問題に関しては、クリントン長官は、現行案での早期決着がベストとしつつも、日本の立場を尊重するとも言っている。ワシントン・ポスト紙は「米国の姿勢に軟化が見られる」と報じている。ただ、これに関しては、普天間代替施設のめどが立たなければ、次善の策として、米国は引き続き普天間を使用し続けるということで腹を括ったことを示唆しているとも受け取れる。

 今回の日米外相会談は、日米同盟の持つ大きなポテンシャルに日米がともに目を向けたという点で意味があったと言える。しかし、だからと言って普天間問題をめぐって不誠実な対応を続ける言い訳にしてはならないことは言うまでもない。それでは今回の外相会談の意義を帳消しにしてしまうことになる。岡田外相は「現行案もまだ生きている」と会談で言っているのだから、時期がずれ込むにしても是非そのようにしていただきたい。同盟の運用はガーデニングのようなもので常に入念な手入れが必要だと言われる。今回の日米外相会談を、「手入れ」を再開するきっかけとしなければならない。そして、鳩山政権発足後の日米関係の経緯から考えて、それには日本側により大きな責任があることを認識する必要がある。
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