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2010-01-22 08:02

鳩山辞職発言で外堀が埋まってきた

杉浦 正章  政治評論家
 衆院予算委論戦で新聞・テレビが一致して自民党総裁・谷垣禎一の突っ込み不足を指摘している。これは公家に武将の荒々しさを求めるようで無理がある。恐らく谷垣は長期戦を意図したのであろう。しかし戦略的にはこの真綿で首を絞める方法が正しい。桶狭間のような奇襲策がない以上、大阪の陣のような「長期包囲戦」でよい。受ける側の首相・鳩山由紀夫を心理的にどのくらい追い込めるかがポイントだが、野党のころの党首討論で見られた覇気は影をひそめ、おどおどした様子が目立った。「違う事実が出たらバッジを外す」との辞職発言はまさに“外堀”が埋まったことを意味する。要するに野党にとっては参院選に向けて内閣支持率を10%に落とす作戦で、一つ一つ外堀、内堀と埋め、窮地に追い込むのが正しい。

 予想された大失言は“場外”で起きた。鳩山は土俵から降りて安心したのか、逮捕された石川知裕について記者団になんと「起訴されないことを望みたい」と発言したのだ。「戦ってください」に次ぐ立場をわきまえぬ大失言だ。一方、予算委については、朝日新聞が「手ぬるい党首対決」と見出しを取れば、読売も「谷垣氏決定打なし」といった具合。筆者もつぶさに聞いて、何でこう突っ込みが足りないのかともどかしく感じた。谷垣の「きょうのところはこれぐらいに」に自民党から「おれに代われ」「もっと突っ込め」とヤジが出るのも無理はない。要するに谷垣は人柄が良いのだ。有能な政治家はここぞと言うときに見事なキャッチフレーズを使うが、谷垣にはもともとその才能がない。言葉にひらめきがないのだ。だから聞いている方はやきもきする。しかしジャーナリストの感覚で突っ込み不足を指摘しても、政党は報道機関ではない。マスコミほどの情報収集能力もない。魚屋で大根くれと言っても無理だ。マスコミがもどかしいと思うこと自体が得点と思えばよい。

 もっとも谷垣のただ一つの“挑発”質問「母親献金を承知していることが証明できたら総理を辞めるか」に、鳩山が「もし違う事実が出て来たらバッジをつけている資格がない」と乗ったのは、鳩山にとって最大の失策だ。母親献金は最近になって出て来たが、発端の虚偽記載をめぐって鳩山は弁護士に収支を調査させている。その調査報告に基づく説明を6月30日の会見でしているが、その時点で12億もの母親献金を弁護士の調査で分からなかったはずがないということだ。総選挙向けにひた隠しにした疑いが濃厚であり、やがて「天地神明にかけて知らなかった」が崩れる可能性がある。その布石になるわけだ。自民党は当該弁護士こそ証人喚問すべきではないか。谷垣は自らの質問を1時間半にとどめ、持ち時間の残り2時間半を気鋭の若手議員二人に割いて疑惑を追及させた。弁護士出身の柴山昌彦と切れ者だった小里貞利の息子・小里泰弘だ。これが結構攻め立てた。もっぱら新聞報道を根拠にした質問で、追及と言うより“復習”の感じが濃厚だったが、改めて予算委員会の場で問題点が白日の下ににさらされた効果は大きいものがある。一方的報道が、やりとりで立体化するからだ。

 この首相と幹事長・小沢一郎のツートップ疑惑の攻防は、よほどの決め手を自民党が入手しない限り、サドンデスの決定打はない。冒頭述べたように包囲戦が正解だ。包囲戦だから自民党だけで戦うわけではない。乗りにのっているマスコミの追及と検察の全面対決姿勢を最大の友軍と位置づけての戦いだ。外堀を埋め、内堀を埋めるのだ。その上で城内の生活の基盤のライフラインを徐々に絞ることだ。ライフラインとは鳩山の場合「国民の皆様」の支持率だ。予算委員会の答弁を聞いた国民の判定は、谷垣の質問が弱々しくてけしからんということにはならないだろう。むしろ鳩山・小沢の疑惑の増大につながったに違いない。
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