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2006-05-29 02:47

王偉彬教授の議論に対する疑問

小笠原高雪  山梨学院大学教授
 王偉彬教授の「中国に根強く残る、日本の右傾化への不安」と題する連続投稿を拝見した。同感できる部分もあれば同感できない部分もあるが、ここでは後者の例を一つだけ申し述べたい。それは、「これまで日本は経済大国、中国は政治大国という状況だったが、これからは日本は、中国が政治大国プラス経済大国であるという現状を認め、そして中国は、国連安保理常任理事国入りを目指す日本の政治大国化を受け入れるべきだ」という部分である。
 
 この部分を素直に読むと、「中国の経済大国化」を日本が不快に思い、できれば妨害しようとしているような印象を持つが、そのような事実はあるのだろうか。日中間ではこれまでもいくつかの経済紛争が起きてきたし、これからも起こるであろうが、交流の増大がときに紛争を伴うことは日中間に特殊なことではなく、日米間や米中間でもみられる。たしかに一般論としては、経済紛争が深刻な政治問題に発展する場合も存在するので、そうした事態が起きないように注意してゆくことは必要であろう。しかし、「中国の経済大国化」それ自体を脅威とみなす意見は目下のところ少数であるし、これからもおそらくはそうであろう。
 
 以上のような議論をわざわざ行なったのは、近年の日本において中国問題として認識されつつある事柄の意味を、私なりに明確にしておきたいからである。日本は中国が文革から脱出した直後の1970年代末からさまざまな経済協力を行なってきたし、1989年の天安門事件に際しては中国の孤立化を回避すべきことを国際社会に訴えた。そうした日本の努力が「中国の経済大国化」の一つの要素となってきたことは事実であろう。そこにはいくつかの動機が存在したが、中国を国際的な相互依存のネットワークに参加させるというのもその一つであった。既存の国際秩序の受益者となるならば、中国もまた現状維持勢力になるであろう、という期待が存在していたのである。
 
 もちろん、それは、日本が日本を含む国際社会の利益を念頭において抱いた期待にすぎない。また、現状維持とは、現状の平和的変更の可能性まで否定するものではない。しかし、そうした期待を抱いて経済協力を行なってきた日本の眼には、近年における中国の言動のいくつかは中国が現状の暴力的変更を肯定していることを示唆するように映る。そのことが中国に対する懸念を生んでいることは否定できないし、経済協力の見直しが始まったこともそれと関係している。経済協力の見直しは、「中国の経済大国化」を日本が認めたくないからではない。それをいうなら、「経済大国化」しつつあるからこそ経済協力は見直してもよい、というほうが普通であろう。
 
 領域内での生産活動の増大を以て「経済大国化」と呼ぶのであれば、それが中国において進行していることに疑いの余地はない。しかし、そのこと自体は、中国に対する懸念の要因ではない。そうではなくて、中国の安全だけでなく、他国の安全にも影響を与える諸問題をどのように処理しようとしているのかが注目されているのである。「お互いの大きさを認め合い、尊重する対等な意識作りが必要だ」という王教授の主張に異存はないが、それを具体化させて地域の安定に役立てるには、両国が(他の関係諸国とともに)共有するべき秩序に関する議論が不可欠であろう。
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