国際問題 外交問題 国際政治|e-論壇「百花斉放」
ホーム  新規投稿 
検索 
お問合わせ 
2010-02-12 00:44

(連載)問題のある「日中歴史共同研究委員会」報告書(1)

高峰 康修  岡崎研究所特別研究員
 日中両国の有識者による「日中歴史共同研究委員会」(日本側座長=北岡伸一・東大教授、中国側座長=歩平・社会科学院近代史研究所長)が1月31日に報告書を発表した。この、日中歴史共同研究委員会は、安倍晋三首相と胡錦涛国家主席との間で、両国の有識者が歴史の共同研究をおこなうことを通じて日中友好を深めることで合意したのを受けて、設置されたもので、古代から近現代にわたる日中の歴史に関して共同研究が行なわれてきた。

 日本側には、真摯に歴史に向き合いたいという純粋にアカデミックな動機から参加した有識者も少なくないのではないかと察する。しかしながら、そのような方々には申し訳ないが、「日本と中国による歴史共同研究に大きな意義を認めることは困難だ」と言わざるを得ない。そのような結果に終わることは、始まる前から目に見えていることであった。それは、学問を共産党支配の道具とみなすような中国の体制と、学問の自由が認められた民主国家である我が国とでは、共通の土俵が皆無に等しいからである。

 報告書の内容全てに目を通してコメントすることは到底不可能だが、報道で大きく取り上げられている近現代史関連のいくつかの論点を見れば、日中共同の歴史研究の意義が認めがたいことは明白である。具体的には、南京事件、満州事変、日中戦争などが挙げられよう。南京事件では、日本側は「20万人を上限として様々な推計がある」としたのに対して、中国側は「30万人余り」との従来通りの中国としての公式見解を繰り返した。満州事変に関しては、日本側は「関東軍の謀略であったが、政府は追認せざるを得なかった」という認識を示したが、中国側は「侵略である」と断じた。そして、日中戦争については、日本側は「その発端となった盧溝橋事件は偶発的だったが、日中戦争の原因の大半は日本側にある」と認め、中国側は「日本による全面的な侵略戦争である」とした。

 これらの注目論点も含めて、結果として、報告書は両論併記という形になったが、議論の全体の流れについては、「中国側が『日本による計画的な侵略ありき』だったのに対して、日本側は個別の事実から侵略性を判断しようというアプローチをとった」という趣旨のことを座長の北岡氏は言っている。また、1945年以降の部分について発表しないよう中国側が強く要請し、その通りになったことも示唆的である。チベット侵略や文化大革命や天安門事件などの中国共産党支配の恥部を隠したかったということであろう。さらに言えば、中国共産党による政権掌握の正統性自体にすら疑問符が付きかねないことをおそれたのではないかと思う。(つづく)
お名前は本名、またはそれに準ずる自然な呼称の筆名での記載をお願いします。
下記の例を参考にして、なるべく具体的に(固有名詞歓迎)お書き下さい。
(例)会社員、公務員、自営業、団体役員、会社役員、大学教授、高校教員、大学生、医師、主婦、農業、無職 等
メールアドレスは公開されません。
ただし、各投稿者の投稿履歴は投稿時のメールアドレスにより抽出されます。
投稿記事を修正・削除する場合、本人確認のため必要となります。半角10文字以内でご記入下さい。
e-論壇投稿の際の注意事項

1.投稿はいったん管理者の元へ送信され、その確認を経てから掲載されます。
なお、管理者の判断によっては、掲載するe-論壇を『百花斉放』から他のe-論壇『議論百出』または『百家争鳴』のいずれかに振り替えることがありますので、予めご了承ください。

2.投稿された文章は、編集上の都合により、その趣旨を変えない範囲内で、改行や加除修正などの一定の編集ないし修正を施すことがありますので、予めご了承ください。

3.なお、下記に該当する投稿は、掲載をお断りすることがありますので、予めご了承ください。

(1)公序良俗に反する内容の投稿
(2)名誉や社会的信用を毀損するなど、他人に不快感や精神的な損害を与える投稿
(3)他人の知的所有権を侵害する投稿
(4)宣伝や広告に関する投稿
(5)議論を裏付ける根拠がはっきりせず、あるいは論旨が不明である投稿
(6)実質的に同工異曲の投稿が繰り返し投稿される場合
(7)管理者が掲載を不適切と判断するその他の理由のある投稿


4.なお、いったん投稿され、掲載された原稿の撤回(全部削除) は、原則として認めません。
とくに、他人のレスポンス投稿が付いたものは、以後部分的であるか、全部的であるかを問わず、いかなる削除も、修正もいっさい認めません。ただし、部分的な修正については、それを必要とする事情に特別の理由があると編集部で認定される場合は、この限りでありません。

5.投稿者は、投稿された内容及びこれに含まれる知的財産権(著作権法第21条ないし第28条に規定される権利を含む)およびその他の権利(第三者に対して再許諾する権利を含む)につき、それらをe-論壇運営者に対し無償で譲渡することを承諾し、e-論壇運営者あるいはその指定する者に対して、著作者人格権を行使しないことを承諾するものとします。

6.投稿者は、投稿された内容をその後他所において発表する場合は、その内容の出所が当e-論壇であることを明記してください。

 注意事項に同意して、投稿する
記事一覧へ戻る
公益財団法人日本国際フォーラム