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2010-04-17 18:56

(連載)『核態勢見直し(NPR)』と日本の安全保障(1)

高峰 康修  岡崎研究所特別研究員
 米国のオバマ政権は、4月6日に、今後5~10年の米国の核戦略の指針となる『2010年核態勢見直し(NPR2010)』を発表した。これは、昨年の12月に発表されるはずだったものが、遅れに遅れていたものである。その遅延の原因は、オバマ大統領が掲げる「核のない世界」という理想に即した内容をできるだけ『NPR2010』に盛り込みたいホワイトハウスと、核抑止力を損なうことを懸念して現実的な内容にしたかった国防総省の間で、なかなか折り合いがつかなかったためであるとされる。

 実際に発表された『NPR2010』を見てみると、意外なほど中庸を得た現実的な線に収まっているように思われる。その骨子は、(1)米国の安全保障における核兵器の役割を縮小する、(2)核拡散防止条約(NPT)に加盟し、順守する非核国に対しては、核攻撃をしない、(3)生物・化学兵器で米国および同盟国を攻撃する国に対しては、“壊滅的な”通常兵器による反撃を行う、(4)新型核弾頭の開発を放棄し、既存の弾頭の運用を延長する、といった内容である。それでは『NPR2010』は、我が国の安全保障に対しては、どのような影響を与えるのであろうか。

 まず、『NPR2010』のキー・コンセプトとして、米国の安全保障における核兵器の役割を縮小するという点がある。これは、米国の核戦略思想の大きな転換であり、一見、我が国への核の傘にも大きな影響がありそうに見える。しかし、『NPR2010』は同時に、米国の核兵器の根本的な役割は米国と同盟国への核攻撃を抑止することであり、これは核兵器が存在する限り続く、と明言している。また、米国から同盟国への抑止力の提供に関しては、先に発表された『4年ごとの国防見直し(QDR2010)』や『ミサイル防衛見直し(BMDR2010)』の内容を反映して、核兵器・通常兵器・ミサイル防衛(MD)の各手段のベストミックスを目指すということであるようだ。すなわち、総論としては、同盟国への拡大抑止力の提供を低下させる意図は全くなく、新しい安全保障環境に応じて拡大抑止力の内容をアップデートしようとしているという内容である。

 当面、我が国を脅かす核保有国・核開発国は、いうまでもなく中国と北朝鮮である。『NPR2010』は「NPT順守の非核国に対しては、核攻撃をしない」としているが、裏を返せばNPT順守の非核国でない中国や北朝鮮は、当然その対象とならないということである。北朝鮮が生物・化学兵器で攻撃してくる場合はどうか、という疑問が出てくるかもしれないが、生物・化学兵器に対して通常兵器で攻撃するという原則も、核保有国やNPTを順守しない国には適用しないと明記している。したがって、北朝鮮の生物・化学兵器使用に対する米国の核兵器による反撃は留保されていることになる。そして、現実問題として、NPTを順守する非核国で、日本を生物・化学兵器によって脅かす国は存在しない。さらに『NPR2010』は、生物・化学兵器の破壊力が増すようなことがあれば、通常兵器による報復という原則も見直すと、念を入れている。『NPR2010』は、巧妙に「但し書き」を多用することによって、夢想的なものにならず、それなりに安心できる内容だと言えるだろう。(つづく)
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