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2010-04-18 00:13

(連載)『核態勢見直し(NPR)』と日本の安全保障(2)

高峰 康修  岡崎研究所特別研究員
 一方、懸念すべき材料としては、まず、新型核弾頭の開発放棄が挙げられる。老朽化した核弾頭を延命して使用するとのことだが、遠い将来にわたってそれが可能というわけではない。戦略核を置き換えるような全く新しい通常兵器の開発は確かに行われているが、まだ実用化の段階にはない。『NPR2010』が、新型核弾頭の開発放棄を打ち出したのは時期尚早であるように思われる。また、新型核弾頭の開発放棄は、通常兵器の能力向上と表裏一体のものとして行われるようだが、少なくとも現時点で核兵器と通常兵器がどれほど代替的であるか、議論の余地がある。

 もっと本質的な懸念は、オバマ政権の行動である。『NPR2010』は指針であり、結局、最も重要なことは、実際にどのような政策が遂行されるかである。その点、MDの強化に関して、オバマ政権のちぐはぐな対応には、大いに疑問を抱く。例えば、ブッシュ政権が建設した東欧のミサイル防衛施設を、ロシアとのリセットを急ぐあまり一方的に廃棄したことは、その典型例である。また、技術上の問題を抱えていたとはいえ、中露を念頭に置いた多弾頭型ミサイル防衛システム(MKV)計画を中止している。さらに、オバマ大統領が、MDはロシア・中国を対象とするものではないと明言してしまったこともある。

 4月8日に署名された米ロ新STARTでは、ロシアにMDに口を挟む大きな余地を持たせている。すなわち、条約本体に防衛兵器の攻撃兵器への転用禁止を盛り込んだほか、声明により、米国が質的・量的にMDを大きく増強したとロシアが判断した場合には、ロシアは新STARTを脱退する権利を留保している。このことは、きわめて重大な意味を持つ。もちろん、将来の米国の政権が、これは不都合であると判断すれば、米国側から新STARTの破棄を通告する可能性がないわけではないが、少なくともオバマ政権が続く間は、ロシアがMDに圧力をかけ続けてくるであろう。それは、我が国にとっても無関係な話ではない。

 米ロの戦略核削減が進めば、次は、米中の話になる。そもそも、米中で戦略核削減の話ができるほどに米国の核を減らしてよいものか、という根本的な疑問があるが、もし、そうなった時には、中国もロシアと同様に、MDに容喙する権利を求めてくることは必定である。これは、わが国にとって死活問題となる。米国の国益も大いに損ねる。新STARTの当該条項および声明は、将来に禍根を残す可能性が高い。譲ってはならない一線を譲ってまで新STARTを無理にまとめ、米ロ「リセット」を演出したオバマ政権のやり方は、危険な行為である。米国が同盟国に対して拡大抑止力を提供する意思は依然として強固であり、差し当たって『NPR2010』の内容に、日本の安全保障に深刻なダメージを与える要素があるとは言えないが、オバマ政権の核政策が危うさを内包していることも、また確かなことである。そして、最大の問題は、我が国がオバマ政権の核戦略に対して、我が国の安全保障上の懸念を伝える余地がないほどに、日米関係が冷却していることであろう。(おわり)
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