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2010-04-30 09:58

(連載)「地球の平和と豊饒」への貢献度を優先せよ(1)

角田 勝彦  団体役員
 今年、日本は国内総生産(GDP)で中国に抜かれ、世界第3位になると見られている。それとも関連し、日本でも、政府が「新成長戦略」の一環として、経済統計に表れにくい国民の満足度などを測る指標の開発を急いでいる。しかし、自国民の満足度や幸福度を新指標まで作って気にするのは、あまり意味がない(国民の意識調査でも用は足りる)。それより自国が世界の平和と豊饒にどのていど貢献しているか、そしてその努力が世界でどのように評価されているか、を具体的に把握し、指数を引き上げるよう努めるべきである。かくしてこそ、我々はGDP順位によらぬ誇りと世界の評価を維持できよう。

 GDPに象徴されるいわゆる物質的利益の追求が、社会的不平等や不当な格差などを生んだとして、あらたな指標の開発を行っているのは、日本だけではない。ブータンでは前国王が30年も前にグロス・ナショナル・ハッピネス(GNH 国民総幸福)を提案し、2008年の憲法でGNHを国是としている。GNHは、「環境保護」「経済的自立」「文化の推進」「良き統治」を四本柱として、健康、教育、地域の活力、環境の多様性など九つの指標で構成されている。

 最近EU諸国を中心に、GDPを超える指標作りへの動きが高まっている。フランスではサルコジ大統領の主導で、ノーベル賞を受賞した経済学者ジョセフ・スティグリッツを委員長に「スティグリッツ委員会」が設置され、2009年9月には、これまでのGDP批判を整理し、違う角度からの指数を組み合わせないと社会の幸福度や持続可能性を計測できない、と今後への方向を示す報告書を提出した。サルコジは、これを受け、「フランスは経済発展の計測にGDPとは異なるハピネス(幸福)を織り込んだ」と発表した。新指標では、GDP比較よりフランスの世界における順位が上昇するようである。

GNHなどには、そもそも多くの問題点がある。GDPのみでは処理できない諸要素、例えばブータンでも重視される健康や教育は、GNHのように「心」を持ち出さなくても、GDPの補足として統計的に処理できる。また「心の豊かさ」を計る要素を決めて、計測する技術的困難さのほか、「心の豊かさ」で貧困撲滅が代替できるか、という基本的疑問がある。さらに「心の豊かさ」を例えば仏教精神に結びつける場合、指標としての価値は消滅しよう。これは「信じる者は救われる」というだけのことにすぎない。(つづく)
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