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2010-05-19 18:31

アレキサンダー大王の故地マケドニアの現状

小沢 一彦  桜美林大学教授
 毎回、紙面をお借りして恐縮です。記憶の新しいうちに、「ガラパゴス化している」と言われる、「コップの中の争い」に終始する日本人に、柔軟でグローバルな世界観を取り戻して欲しくて、寄稿しております。前回の投稿記事の続きですが、ギリシアを列車で出発し、トルコのイスタンブールを目指したのですが、テッサロ二キ駅でストライキにより足止め。途方に暮れていると、1本だけ残っていたマケドニアのスコピエ行きの最終列車が出るところ。何とか飛び乗り、一路北上してスコピエに。予約も何もしていない状態で、夜の8時過ぎに真っ暗なスコピエ駅に到着。旧ユーゴスラビアは、まだまだインフラが未整備のところが多いことを痛感しました。タクシーはぼられることが明白ですし、狂犬病の野犬も多いので、何とか明りを目印に中央駅周辺を歩きまわり、その夜無事にホテルに泊まることができました。

 マケドニアは古代ギリシア時代からの強国で、「ローマ帝国」以前に初めてヨーロッパを統合した最初の政治・軍事集団でした。アレキサンダー大王の母親もギリシア人で、ぺラ生まれの息子のアレキサンダーのために、わざわざアリストテレスをアテネより連れてきて、帝王学をほどこしています。成長するにつれ、王としてふさわしい才覚を発揮、父親の暗殺事件後、王位を継いで、欧州、アフリカ、西アジア、インド西部方面まで支配。いわゆるヘレニズム文化を育みました。あえて、ペルシア人との通婚政策まで取り入れ、自らもペルシア人の王妃を迎えています。この地域に美男美女が多いと言われるのも、アレキサンダーの通婚政策の遺産です。しかし、大遠征の疲労もあり、紀元前323年に33歳でバビロニアで死去してしまいました。

 スコピエの街は、アルバニアとの国境のコラブ山が遠くに聳える街で、ヴァンダル川沿いに日本人の丹下健三の設計で復興された静かなところです。ただし、マケドニア人、アルバニア人、イスラーム教徒、トルコ系、ロマなどが居住区ごとに棲み分けしており、1963年の大震災の影響もまだ残り、さらには内戦時代の地雷がまだ多数郊外には残されていて、危険と隣合わせです。国連保護軍やNATO軍に話を聞くと、人口200万人のマケドニアは、西部を中心にアルバニア人が25%を占めていて、コソボにおけると同様に、自分たちの分離・独立を主張しています。いまだにアルバニア系武装勢力(NLA)も潜伏しており、油断はできません。さらには、「マケドニア」という国名や「ヴェルギナの星」という国旗にまで南部のギリシアから猛反発を受け、一時険悪な関係にありましたが、1995年にマケドニアとギリシアは「和解宣言」で合意しております。

 1991年に無血独立しましたが、経済状態はまだ貧困なままで、インフラも未整備、そして、何よりも政治的安定がまだ達成されておりません。21世紀になって、マケドニア社会民主同盟とマケドニア国家民主党、内部マケドニア革命組織が政権を交代しながら、アルバニア系との連立を組んでいます。本当に、西欧中心部とは全く異次元の、夜間も安全に外を歩けない、脆弱な「民主主義体制」です。EU周辺部にはこのような国がまだ多数残されております。日本人にもあまり知られていないバルカン半島、旧ユーゴスラビア周辺諸国への大遠征報告、これからも皆様にお届けするつもりです。
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