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2010-05-20 01:02

海兵隊の抑止力とは何か

川上 高司  拓殖大学教授
 「普天間基地を最低でも県外へ移転する」と沖縄に約束していた鳩山総理が、沖縄でその発言を撤回した。ここで鳩山総理は「県外移設が無理だ」とした理由に、米海兵隊の「抑止力」をあげた。ここでは「抑止力」を具体的に解明したい。「抑止力」とは、攻撃を拒否し、報復する能力と意思を相手に認識させることによって、攻撃を思いとどませることである。海兵隊は海軍省に属し、陸・海・空の能力を兼ね備えた独立戦闘集団であり、その順応性、適応能力は高く、戦場においては最先鋒を務める。海兵隊の「役割」には、地域紛争および地域の不測事態の抑止・対処、シーレーンの安全確保、大規模災害救済および人道支援、地域安全保障に対する米国のコミットメントの確証、米国と同盟国にとり優位なパワー・バランスの維持などがある。

 日本にとっては、日本本土への脅威に対する米海兵隊の抑止力が最も重要である。日本は北朝鮮からはたびたび「火の海にする」と脅されてきた。また、朝鮮半島有事の際には、北朝鮮からのWMD(核・化学・生物)兵器搭載のミサイル攻撃や特殊部隊の上陸などが想定される。さらに、中国海軍の日本近海での活動は度重なるようになり、台湾海峡有事の際には中国の領海侵犯もしくは尖閣列島をはじめとする先島諸島への領土侵犯などが想定される。もし、尖閣列島を占有された場合、自衛隊独力での奪回は困難であるため、海兵隊との共同作戦が不可欠になる。しかし、日米に能力と意志がある限り、中国はそういった行動には出ないであろう。

 また、米海兵隊の抑止機能を考慮した場合、一番重要なのは地政学的観点である。沖縄をベースとする海兵隊実戦部隊の移転先がグアムになった場合、朝鮮半島有事の際に海兵隊の支援が間に合わず、韓国の安全保障に深刻な影響が出る。それと同様、台湾海峡有事の場合もしかりである。海兵隊は沖縄からは台湾、朝鮮半島、尖閣列島へは1日で展開可能である。しかし、例えば、富士へ移設された場合には、朝鮮半島へは2日、台湾へは3日かかる。その1~2日の遅れが致命傷となるために、沖縄県内に駐留せねばならないのである。以上のような海兵隊の抑止力を、鳩山総理はようやく学び、沖縄県内への移転を表明したのであろう。今後の普天間基地移設のシナリオについては、3つのシナリオが考えられる。

 第一は、普天間基地移設問題の本年5月末までの決着のシナリオである。しかし、現在の辺野古修正案(杭打ち桟橋方式)では地元の反対が激しく、決着はきわめて厳しい。第二は、7月の参議院選挙後に民主党が新体制でスタートして、11月のオバマ大統領訪日までに解決するシナリオである。この場合、米側の戦略ニーズ、地元の合意、政権内の合意という3次元連立方程式を早急に解かねばならない。その時、総理の強い政治的手腕が必要となる。是非実現させて欲しいシナリオである。第三は、11月のオバマ大統領訪日までに普天間移設問題を解決できないシナリオである。この場合、日米同盟は限りなく希薄化する懸念が生じるであろう。
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