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2010-05-25 19:20

日米協力なき日豪安保協力は、画竜点睛を欠く

高峰 康修  岡崎研究所特別研究員
 2007年の日豪安保共同宣言や、同年に行なわれた初の日豪2プラス2(外務・防衛閣僚による定期協議)以来、我が国とオーストラリアの間の安全保障分野における協力関係は急速に深化してきた。我が国が2プラス2を持つに至ったのは、条約上の明白な同盟国である米国以外では、オーストラリアが初めてである。今や、オーストラリアは我が国にとって「準同盟国」あるいは「事実上の同盟国」であるといってよい。実際、日豪が初めて2プラス2を開催した時には、海外の論説の中には、「中国の脅威を念頭においた日豪同盟の幕開けである」と喝破したものがあったと記憶している。

 さて、この5月19日に東京で開かれた日豪2プラス2では、日豪両政府は、かねてから取り沙汰されていた自衛隊と豪州軍の間の物品役務相互提供協定(ACSA)に署名した。ACSAは、自衛隊と相手国の軍隊が共同訓練などの特定の活動を行なうに際して、後方支援、食糧や水や燃料などの軍需物資、あるいは役務を簡易かつ統一的な手続きにより相互に提供することを取り決めておくことにより、両者の共同行動の効率化・迅速化に資するものである。このACSAもまた、我が国が締結するのは、米国についでオーストラリアが2番目である。日豪安保協力の深化にとって画期的な出来事であると評価すべきである。

 日米間でのACSAでは、(1)共同訓練、(2)国連PKO、(3)人道的な国際救援活動、(4)周辺事態に対応する活動、(5)武力攻撃事態等を排除するために必要な活動、(6)国際の平和・安全に資するための国際社会の促進や大規模災害への対処等、が対象となっているが、日豪は条約上の同盟国ではないので、当面は上記(4)(5)が対象になることは想定できず、国際の平和と安定に資する国際的取り組みや災害援助などといった事項が対象になる。すなわち、まずは「世界の中の日豪同盟」という側面から強化して行くということである。ただ、長期的には、日豪の間でも「相互安全保障条約」を結んで、正式な同盟国になるべきである。その時に日米間における場合以上に問題となってくるのが、我が国の集団的自衛権行使に関する憲法解釈である。これをクリアしなければ真の「日豪同盟」にはなり得ない。集団的自衛権の問題を考える際には、これを認めることにより我が国の安全保障政策の幅が広がることに留意すべきである。

 ところで、日豪間の安保協力強化に関して特記しておきたいことが2点ある。まず、今回の日豪間のACSAへの署名は、両国において政権交代が起きた後になされたということである。豪州では親中と目されていたラッド労働党政権に交代した後であり、我が国では民主党を中心とする鳩山政権に交代した後である。鳩山政権は、こと日米関係に関しては外交の継続性に全く配慮を払わない(むしろ意図的に継続しないよう力を注いでいるというべきかもしれない)が、対オーストラリア関係に見られるように、外交の継続性を保つことは全く可能なことであり、適切な行動でもある。日米関係は目立つので、何としても前政権との違いを出したいということなのだろうか。つまらないメンツは捨てて、対米関係も、対豪関係のように適切に対応すべきである。

 次に、日豪の安保協力深化はもとより歓迎すべきことであるが、この基盤にはあくまでも日米同盟と米豪同盟があるのであって、米国の関与がなければ、日豪協力は画竜点睛を欠く。豪州の大戦略は、日米豪の安保協力の枠組みによって、米国をアジア太平洋地域の安定と平和により深くコミットさせるということだからである。この観点は、我が国にとっても同様に当てはまる。したがって、日米関係が冷却化している状況下での日豪安保協力強化というのは、意義が著しく減じるのである。日米豪の三国による安保協力の枠組みは、西太平洋の主要海洋国家による中国の脅威からの西太平洋の防衛活動に他ならない。それは、地域の「国際公共財」たりうるものである。これを効果的なものとするためにも、日米関係の正常化は焦眉の課題である。
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