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2010-06-27 00:44

(連載)アフガン駐留米軍司令官更迭問題の教訓(1)

高峰 康修  岡崎研究所特別研究員
 政軍関係は古代から続く難問の一つだが、その最もまともな解がシビリアン・コントロールである。すなわち、民主的に選ばれた文民である最高司令官が、戦略目標を軍に対して提示し、軍はその目的を達成すべく出来うる限りの手段を尽くし、文民指導者が結果に対する政治責任を負う。最終責任を負うのだから、文民指導者には優越が認められる。大雑把にいえば、これがシビリアン・コントロールの構造である。

 シビリアン・コントロールに関して、等閑視されがちだが重要なことは、文民指導者は確かにリーダーシップを求められるが、戦略目標を一旦提示したならば、具体的な作戦は、専門家である軍人に任せるべきだということである。それが分からずに、細かいことに容喙するような文民指導者は、軍事的なセンスに欠けるというべきである。また、遂行する軍人を戸惑わせるような支離滅裂な指令を下す最高司令官は、無能に他ならないが、シビリアン・コントロールは、無能な最高司令官の下では機能不全に陥る。そのよい例が、6月23日に起きた、オバマ米大統領によるマクリスタル・アフガン駐留米軍司令官更迭事件である。

 マクリスタル司令官とその側近は、6月25日発売の米国の雑誌『ローリング・ストーン』の記事で、大統領、副大統領、アフガニスタン・パキスタン特別代表、駐アフガン大使ら、アフガン政策に関与するオバマ政権の高官をことごとく批判したことが明らかにされ、オバマ政権の激しい怒りを買っていた。そして、これが原因で直ちに更迭され、後任にはイラクでの増派で名をはせたペトレイアス米中央軍司令官が任命された。形式論から言えば、作戦遂行を巡って雑誌で文民指導者を厳しく(いささか侮辱的に)批判した軍人が更迭されたということであり、シビリアン・コントロールの原則に従った処置であったには違いない。

 しかし、実際は、シビリアン・コントロール発動のそもそもの原因を作ったのは、オバマ自身である。オバマ本人をはじめ政権の高官たちがマクリスタル司令官の更迭に際してシビリアン・コントロールを言いたてるのは、自分で放火しておいて「スプリンクラーが作動した」と胸を張るようなものである。オバマ大統領は「対テロ戦争で重要なのは、イラクではなくて、アフガンだ」と力説して、大統領選を戦い、勝利した。「イラク駐留米軍を振り向ける形で、アフガンに増派せよ」というのが、オバマの主張であった。オバマ大統領のアフガン重視の切り札として抜擢されたのが、対テロ・ゲリラ戦の専門家であるマクリスタル司令官であった。(つづく)
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