国際問題 外交問題 国際政治|e-論壇「百花斉放」
ホーム  新規投稿 
検索 
お問合わせ 
2010-06-28 09:45

(連載)アフガン駐留米軍司令官更迭問題の教訓(2)

高峰 康修  岡崎研究所特別研究員
 マクリスタル司令官は、アフガン情勢についての報告書を北大西洋条約機構(NATO)と米中央軍司令部に2009年8月31日に提出している。マクリスタル司令官は、報告書で「状況は深刻だが、成功は可能だ」と現状分析した上で、戦略の主軸を地元の部隊による治安維持に移すことを提言し、「そのためには4万人規模の増派が必要だ」と主張した。しかし、その意見具申は、同年12月までオバマ政権によって店晒しにされた。12月1日になって、やっと、オバマ氏はウェストポイトの陸軍士官学校における演説で、「2010年前半に米軍部隊を3万人追加増派する」ことを表明したのである。3万人では兵力不足である。オバマ氏はマクリスタル報告書が出る以前にも、兵力の逐次投入という軍事理論上有り得ないミスを犯していた。軍事的常識の欠如を見事に露呈している。

 そして、さらに致命的なことに、2011年7月を米軍の撤収期限とすることを表明した。マクリスタル司令官は、過小な兵力で2011年7月までの期限をつけられるという厳しい条件の下で、アフガンの治安回復に取り組むことを強いられた。こんなことは無理難題と言ってよい。さらに、バイデン副大統領やアイケンベリー駐アフガン大使は、増派の効果への疑問を公言していた。アイケンベリー大使に至っては、昨秋に増派の効果を疑問視する公電をワシントンに送っていた。ホルブルック特別代表も作戦に関して過度に容喙していたとされる。マクリスタル司令官が、雑誌に政権批判の一つや二つも言いたくなる心情も理解できる。

 オバマ大統領自身の支離滅裂な指令と、取り巻きによる後ろから鉄砲を撃つような行為が、マクリスタル司令官の手を縛り、追い詰めたのである。こんなことは、正常なシビリアン・コントロールから逸脱しており、作戦遂行にとって極めて大きな障害になる。無能な最高司令官の下ではシビリアン・コントロールは機能不全に陥ると、先に指摘した所以である。翻って、そもそもシビリアン・コントロールが曲解されている我が国の政軍関係のお粗末さは、空恐ろしいものがある。以前は、シビリアン・コントロールは背広組の制服組による優越であり、文民統制ではなくて「文官統制」であった。

 最近では、「同盟は言葉で守られるものではない」と訓示で発言した陸自幹部が、鳩山前首相を批判したとして事実上更迭された事件があった。こんなことは、シビリアン・コントロールではなく、単なる言論封殺である。我が国は、まずシビリアン・コントロールの概念を正しく理解することが急務である。しかし、それだけでは不十分である。オバマ大統領の例を見れば分かるように、文民指導者が軍事的常識に欠けていれば、シビリアン・コントロールは正しく作動しない。万が一、有事に政軍関係がぎくしゃくするようなことがあれば、国が滅びかねない。政治家が軍事的常識を身につけることの重要性は、いくら強調してもし過ぎることはない。(おわり)
お名前は本名、またはそれに準ずる自然な呼称の筆名での記載をお願いします。
下記の例を参考にして、なるべく具体的に(固有名詞歓迎)お書き下さい。
(例)会社員、公務員、自営業、団体役員、会社役員、大学教授、高校教員、大学生、医師、主婦、農業、無職 等
メールアドレスは公開されません。
ただし、各投稿者の投稿履歴は投稿時のメールアドレスにより抽出されます。
投稿記事を修正・削除する場合、本人確認のため必要となります。半角10文字以内でご記入下さい。
e-論壇投稿の際の注意事項

1.投稿はいったん管理者の元へ送信され、その確認を経てから掲載されます。
なお、管理者の判断によっては、掲載するe-論壇を『百花斉放』から他のe-論壇『議論百出』または『百家争鳴』のいずれかに振り替えることがありますので、予めご了承ください。

2.投稿された文章は、編集上の都合により、その趣旨を変えない範囲内で、改行や加除修正などの一定の編集ないし修正を施すことがありますので、予めご了承ください。

3.なお、下記に該当する投稿は、掲載をお断りすることがありますので、予めご了承ください。

(1)公序良俗に反する内容の投稿
(2)名誉や社会的信用を毀損するなど、他人に不快感や精神的な損害を与える投稿
(3)他人の知的所有権を侵害する投稿
(4)宣伝や広告に関する投稿
(5)議論を裏付ける根拠がはっきりせず、あるいは論旨が不明である投稿
(6)実質的に同工異曲の投稿が繰り返し投稿される場合
(7)管理者が掲載を不適切と判断するその他の理由のある投稿


4.なお、いったん投稿され、掲載された原稿の撤回(全部削除) は、原則として認めません。
とくに、他人のレスポンス投稿が付いたものは、以後部分的であるか、全部的であるかを問わず、いかなる削除も、修正もいっさい認めません。ただし、部分的な修正については、それを必要とする事情に特別の理由があると編集部で認定される場合は、この限りでありません。

5.投稿者は、投稿された内容及びこれに含まれる知的財産権(著作権法第21条ないし第28条に規定される権利を含む)およびその他の権利(第三者に対して再許諾する権利を含む)につき、それらをe-論壇運営者に対し無償で譲渡することを承諾し、e-論壇運営者あるいはその指定する者に対して、著作者人格権を行使しないことを承諾するものとします。

6.投稿者は、投稿された内容をその後他所において発表する場合は、その内容の出所が当e-論壇であることを明記してください。

 注意事項に同意して、投稿する
記事一覧へ戻る
公益財団法人日本国際フォーラム