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2010-08-24 13:49

対北朝鮮外交にも重い足枷となる「菅談話」

高峰 康修  岡崎研究所特別研究員
 8月10日に日韓併合100年に際して発表された「菅談話」の問題点は、一つは、言うまでもなく1965年の日韓基本条約で決着済みの話を蒸し返したことである。その上で、結局、改めて「日韓間の賠償問題は決着済みである」と表明せざるを得なかったのだから、日韓関係にとっては逆効果である。もう一つの重大な問題点は、特定の国に対して突出した謝罪をしてしまったことである。しばしば1995年の村山談話が引き合いに出されて、ともに自虐的であると批判されるが、村山談話は特定の国に対して謝罪したわけではないので、意味合いが全く異なる。韓国に対してあのような談話を発表してしまったならば、中国や北朝鮮といった国々に飛び火するのは目に見えていた。とりわけ、今後長期間にわたって厄介なことになりそうなのは北朝鮮である。

 菅談話は、現在の北朝鮮も併合の対象であったことを、いわば無視している。日韓併合に関してお詫びを言えば、北朝鮮も何かを要求してくるのは当然の話である。菅談話により、北朝鮮に新たな外交カードを持たせてしまったことになる。なお、日韓基本条約は第3条において、「大韓民国政府は、国際連合総会決議第百九十五号(III)に明らかに示されているとおりの朝鮮にある唯一の合法的な政府であることが確認される」と定めているが、これは現実には空文化している。その証拠に、北朝鮮は国連に加盟しているし、日朝が国交正常化交渉を行うことに対して韓国は別段異論を言って来ない。

 北朝鮮の朝鮮中央通信は、8月20日に「日韓併合は前代未聞の国家テロである」とする「告発状」を発表し、菅談話に対して「わが国に対する国権強奪を認めず、謝罪も賠償もしようとしない強盗的な姿勢がにじんでいる」と強く非難したと、報じられている。実に端的な要求である。北朝鮮の問題は、朝鮮中央通信が「告発状」を発表したといった単なる目先の話ではない。日本人拉致事件の交渉において、北朝鮮が併合問題を持ち出してくることは間違いない。また、長期的には日朝の国交正常化は現実の外交課題として上ってくる可能性が高いが、その際にも同様である。

 日朝国交正常化交渉などしなければよいではないかという反論もあるかもしれない。確かにそれも一理あるには違いないが、仮に米国が北朝鮮と国交正常化すれば、日本が同調しないことは現実問題としてなかなか困難である。また、日朝国交正常化がまとまる前に韓国主導の南北統一が実現してしまえば、北朝鮮が菅談話を根拠に要求をエスカレートさせるということは起こらないが、外交においてそういう僥倖に期待するのは誤りである。日韓併合について謝罪をするということは、対北朝鮮外交においても不利な材料を自ら作り出したことに他ならない。これが如何に日本の国益を損ねることか、言うまでもないことであろう。
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