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2006-06-28 10:45

米印原子力協定を結んだアメリカの意図は何か

石田千恵子  塾講師
 6月26日付の「JFIRコラム」の中で、伊藤憲一氏は「日本人は朱子学の影響のせいか、まず『べき論』ありきの議論が好きで、見たくない現実は存在しないことにして議論を進め、結果として戦略を誤り、自らの墓穴を掘る結果となる傾向が強い」と述べておられる。私も同感だ。よく「日本には戦略がない」と言われるが、それはまさにこの「見たくない現実は存在しないこと」にして対応を怠り、全てが後手に回っているからだ。

 今回の米印原子力協定によって、伊藤氏の指摘する「国際社会における核不拡散の大義の加速度的かつ不可逆的な後退」という大きな問題が顕著になった。唯一の被爆国であるというだけでなく、周囲に巨大な中国と不安定な北朝鮮という二つの核保有国を抱える日本にとって、これは深刻な問題だ。

 だが、それ以上に、アメリカを同盟国とする日本が考えなければいけないのは、今回の米印原子力協定を結んだアメリカの意図は何か、ということだ。そして、これは中国に対する対抗措置だと見る専門家が多い。アメリカが最も懸念しているのは、アジアにおける米国の影響力の低下である。中国の台頭によりアジアのパワー・バランスは現在急速に変化してきている。そのような中で、アメリカから見て同盟国日本は真に頼りがない。いつまでも中国・韓国との歴史問題を解決できず、アジアで孤立している。そのくせ、9.11後のアメリカの期待に反し、憲法改正が行われる気配もなく、依然として集団的自衛権の行使を否定している。そのような日本への失望は大きい。そのようなアメリカがアジアの中で日本に代わる頼りがいのあるパートナーを探し始めたと考えることは、それほど的外れではない。

 米印原子力協力に踏み切ったアメリカの決意を軽く見るのは間違いであろう。アジア周辺には米ロ中に加え、まずインド、つぎに北朝鮮が核保有国として出現するであろう。そしてそのような核保有国群に取り囲まれた日本はといえば、見たくない現実からは目をそむけた平和ボケの国として、同盟国アメリカからも見離され、アジアの孤児として漂流を始めるのではないだろうか。日本は上述のような厳しい現実を直視した上で、どうしたらアメリカを引きつけておくことができるか、或いは日米同盟に頼らずに自国のアジアにおける影響力を強化できるか、長期的展望に基づいた戦略を構築するべきである。
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