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2010-09-27 11:11

(連載)「敗北の屈辱感」から何を学ぶか(2)

角田 勝彦  団体役員
 中国人船長の釈放後も事態は必ずしも鎮静化していない。中国外務省は、船長が帰国した後、「日本側は船長らを違法に拘束し、中国の領土と主権、国民の人権を侵犯した」と強く抗議する声明を発表し、日本側に謝罪と賠償を求める方針を明らかにした。声明は「釣魚島と付属の島が中国固有の領土で、中国は争う余地のない主権を有している」と改めて強調し「日本側の取った司法措置はすべて違法・無効で、日本側はこの事件について中国側に謝罪と賠償をしなければならない」と指摘した。これに対し、日本外務省幹部は9月25日午前、「中国側の声明は、尖閣諸島が自分たちの領土であるという立場で論じている。あくまで中国側の理屈に沿ったものだ」と批判し、謝罪と賠償を求めていることについて「全く受け入れられない」と述べた。

 「打落水狗(水に落ちた犬は打て)」という 魯迅の言葉がある。国共内戦時の話だが、これが当分中国側の方針である、と覚悟した方が、楽観主義より無難だろう。今回の釈放決定は、「日本が中国の圧力に屈した」と世界的に日本の威信を下げた。菅首相は24日の国連一般討論演説で日本の安保理常任理事国化への決意を示したが、その可能性はこれでまた遠くなった。米国は24日国務省のクローリー次官補(広報担当)の記者会見で、日本の船長釈放について「正しい決断だ。これで地域の緊張が大きく緩和されることは間違いない」と述べ、歓迎したが、米主要紙は「屈辱的退却」と酷評し、また中国がアジアでの領土紛争で大胆さを増す危険を引き起こしたと悪影響に懸念を示した。
 
 さて覆水盆に返らずという。今後どうするかである。当面の課題は、国民の認識が深まったと思われる日中国境問題への対応であろう。24日 前原外相は船長釈放決定後の報道陣のインタビューに応じ、「東シナ海に領土問題は存在しない」との大原則を強調し、その上で「もし同様の事案が今後起きれば、しっかりと毅然と対応していくことに変わりはない」と述べた。問題は、地元において「中国側が増長し、違法操業が増えるのは間違いない。日本漁民が安心して漁をできなくなれば、国境付近の漁場に行けなくなる」旨の声すらあることである。海上保安庁の士気も低下しよう。中国漁業監視船や海洋調査船の国境航行も懸念される。国境では政治の論理でなく、軍事の論理が優先する。菅内閣はこれらの具体的懸念を払拭するよう、目に見える形で海上保安庁を中心に国境警備体制強化に踏み切るべきである。

 日米中の関係については、中国が警戒すべき大国主義を基本としていること、日米関係の脆弱化を利用しようとしていることなどに対し、国民の理解は深まったと思われる。菅内閣は、日中両国が平和的で建設的な関係を築いていくためにも、普天間問題解決を中心に、日米同盟の堅持にいっそう努力すべきである。(おわり) 
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