国際問題 外交問題 国際政治|e-論壇「百花斉放」
ホーム  新規投稿 
検索 
お問合わせ 
2010-09-27 12:06

中国とどう向き合うか(再考)

塚崎 公義  久留米大学教授
 今回の中国漁船の事件は、「日本が今後ともこのような対中弱腰外交を続けるべきか否か」という極めて重要な問題を提起した。これについては、「続けるべきでない」という否定的な論者が多い。論拠としては「主権国家としての権利を貫くべきである」といった正論、「弱腰外交は、足元を見られて、相手を一層強気にさせるから、得策ではない」、「日本が短期的な不利益を甘受することで中国の横暴を諸外国に知らしめ、中国包囲網の機運を盛り上げるチャンスとして活用すべきだ」といった戦略論、「日本国民に中国という国の実態を知らしめる事で、日中関係の今後を議論する契機とすべき」といった教育論等々がある。

 しかし、日本と中国の置かれた状況を長期的に考えると、問題は単純ではないと思う。私は政治安全保障の専門家ではないが、中国が膨張を続け、日本が少子化で衰退する事が見込まれる中、中国と日本の力関係が大きく変化していく事は容易に想像出来る。更に大きな問題は、中国が膨張を続けると、米国との力関係が変化し、米国の防衛ラインがハワイまで退く可能性がある事である。そうなれば、西太平洋は中国の覇権下に入ることになる。仮にそうした事態が想定されるのであれば、中国の国民感情を反日化させない事が、長期的な日本の国益にとって極めて重要だと言わざるを得ない。
 
 サラリーマンにとって「ワガママな新入社員がいても、かれがオーナー社長の御曹司であり、将来は自分の上司になるかもしれない」という状況下では、多少の理不尽には目を瞑っても、御曹司の御機嫌を取る事も必要だ、という論理である。日本と中国の関係も、同様に考える必要があるかもしれない。こうした点を含めて、日本として今後の対中関係をどう考えるのか、大いに議論していく必要があろう。

 今回の事件が提起した今ひとつの論点は、国益の絡む問題を司法の判断に任せてよかったのか、という事である。これについては、否定的に考えるべきである。法律が重要であることは当然であるが、法律の適用が国益に優先するべきではない。「法律を守ったら国が滅びた」といった事態は容認し難いからである。今回のような事件は、今後も必ず生じるであろう。その際には、司法に任せるのではなく、「超法規的措置が必要か否か」といった高度な政治的判断がまず行なわれるべきである。もちろん、「本件には超法規的措置は不要だから、法律どおりでよい」という結論もあり得るが、そうした検討が行なわれる事自体に、意味があるのである。
お名前は本名、またはそれに準ずる自然な呼称の筆名での記載をお願いします。
下記の例を参考にして、なるべく具体的に(固有名詞歓迎)お書き下さい。
(例)会社員、公務員、自営業、団体役員、会社役員、大学教授、高校教員、大学生、医師、主婦、農業、無職 等
メールアドレスは公開されません。
ただし、各投稿者の投稿履歴は投稿時のメールアドレスにより抽出されます。
投稿記事を修正・削除する場合、本人確認のため必要となります。半角10文字以内でご記入下さい。
e-論壇投稿の際の注意事項

1.投稿はいったん管理者の元へ送信され、その確認を経てから掲載されます。
なお、管理者の判断によっては、掲載するe-論壇を『百花斉放』から他のe-論壇『議論百出』または『百家争鳴』のいずれかに振り替えることがありますので、予めご了承ください。

2.投稿された文章は、編集上の都合により、その趣旨を変えない範囲内で、改行や加除修正などの一定の編集ないし修正を施すことがありますので、予めご了承ください。

3.なお、下記に該当する投稿は、掲載をお断りすることがありますので、予めご了承ください。

(1)公序良俗に反する内容の投稿
(2)名誉や社会的信用を毀損するなど、他人に不快感や精神的な損害を与える投稿
(3)他人の知的所有権を侵害する投稿
(4)宣伝や広告に関する投稿
(5)議論を裏付ける根拠がはっきりせず、あるいは論旨が不明である投稿
(6)実質的に同工異曲の投稿が繰り返し投稿される場合
(7)管理者が掲載を不適切と判断するその他の理由のある投稿


4.なお、いったん投稿され、掲載された原稿の撤回(全部削除) は、原則として認めません。
とくに、他人のレスポンス投稿が付いたものは、以後部分的であるか、全部的であるかを問わず、いかなる削除も、修正もいっさい認めません。ただし、部分的な修正については、それを必要とする事情に特別の理由があると編集部で認定される場合は、この限りでありません。

5.投稿者は、投稿された内容及びこれに含まれる知的財産権(著作権法第21条ないし第28条に規定される権利を含む)およびその他の権利(第三者に対して再許諾する権利を含む)につき、それらをe-論壇運営者に対し無償で譲渡することを承諾し、e-論壇運営者あるいはその指定する者に対して、著作者人格権を行使しないことを承諾するものとします。

6.投稿者は、投稿された内容をその後他所において発表する場合は、その内容の出所が当e-論壇であることを明記してください。

 注意事項に同意して、投稿する
記事一覧へ戻る
公益財団法人日本国際フォーラム