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2010-10-07 17:26

日中首脳「立ち話」は危険な素人外交

高峰 康修  岡崎研究所特別研究員
 10月4日にアジア欧州会議(ASEM)首脳会議の夕食会終了後に、菅首相と温家宝首相が「会談」をしたということになっている。しかし、これは通常の意味での首脳「会談」などではなく、首脳「立ち話」というべきものであった。菅首相や周辺は「関係改善への糸口をつけた」と胸を張っているようだが、温家宝首相に「尖閣は中国固有の領土である」と主張されただけで、レアアースの対日輸出制限の完全解除や、拘束されているフジタ社員の解放に関して具体的な提案があったわけでもなく、意味のない「戦略的互恵関係」の進展を確認しただけである。

 問題にしたいのは、内容だけではない。ASEMでの菅・温家宝「会談」が、またもや外務省の事務方を外した官邸主導の素人外交であったという点である。これは、極めてリスクの高いことである。官邸主導でいつの間にか菅・温家宝「会談」が決まったため、今回、日本外務省は、通常は日中首脳会談に必ず同席させる中国・モンゴル課長と中国語通訳を同行させていない。日本側には中国語を理解する同席者が居なかったのである。その結果どうなったか。温家宝氏の発言は中国側の通訳が日本語に訳して菅首相に伝達するという形になったのである。これでは、温家宝氏の発言が正確に伝えられたのか不明である。「極めてリスクが高い」と書いたのは、こういう意味である。

 中国側は、日本側が首脳会談をやりたくて仕方がないということを見越して、サプライズ効果を狙い、敢えて帰国間際に「立ち話」という形の首脳会談をセッティングしたのであろう。温家宝氏と会談ができたといって、あたかも舞い上がっているかのようであるのは如何なものか。それだから侮られるのである。日本側のお粗末さとは対照的に、中国側は用意周到であり、中国外務省アジア局の担当者が同行していた。今のところは日本にとっての不都合や不利益は露呈していない。ことによると、何もなく過ぎるかもしれない。といって、今回のようなやり方が是認されるべきでないことはいうまでもない。

 尖閣沖衝突問題では、一貫して官邸が主導権を握ってきた。官邸は、一体いつになれば危険な素人外交をやめるのであろうか。官邸主導の素人外交が続けば、我が国の国益を著しく損ねる危険性がある。これは、対米関係でいやというほど学んだことではなかったのか。まして、潜在的敵国である中国との間で素人外交を行うなど、戦慄を覚える。外務省の事務方を外すことが「政治主導」と勘違いしているのであれば、直ちに改めてもらわなければ、日本国の存亡にもかかわりかねない。
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