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2010-10-24 14:58

(連載)オバマ外交は「好かれるアメリカ」を卒業できるか?(3)

河村 洋   NGOニュー・グローバル・アメリカ代表
 軍事的な関与を減らしたからといって、決して経済成長が保証されるわけではない。外交政策イニシアチブのウィリアム・クリストル所長は、世論の間で広まっている「軍事支出がアメリカ経済の負担になっている」という誤解に反論している。イラクとアフガニスタンの戦費を含めても、今年の国防支出はGDPの4.9%で、第二次大戦以降の年平均の6.5%を下回っている。他の予算と比較しても、9・11以降で国防支出が大幅に増額されたわけではない。きわめて重要なことに、クリストル氏が指摘するのは、「アメリカの軍事的関与がなくなって世界各地が不安定になれば、長期的な経済成長など望めない情勢になってしまう」ということである。クリストル氏が主張するように「安価で弱小な軍事力によって財政改善を望むことはできない」のである。

 不充分な軍事関与の問題には、もっと根深いものがある。冷戦終結以来、アメリカは「歴史の終焉」を前提にして、充分な国防支出を行なわなかった。よって、今日の安全保障に突きつけられた課題は、オバマ政権だけの責任ではない。最近、アメリカン・エンタープライズ研究所、ヘリテージ財団、外交政策イニシアチブが共同発行した "Defending Defense" というレポートは、「国防費の過剰支出」という誤った見方に反論し、「購買力平価で見れば、中国の軍事支出はアメリカに近づいている」という。国防費の持続性については、ヘリテージ財団のマッケンジー・イーグレン研究員が1976年以降の動向を分析して、「国防費の伸びは、社会保障費ほどではなく、財政赤字の原因にはなっていない」と指摘している。この共同レポートは世界の警察官としてのアメリカ役割を支持し、「世界を不安定に導くような潜在的な攻撃を防ぐためにも、アメリカ軍はあらゆる事態に対処する準備ができていなければならない」と説いている。

 ロバート・ケーガン氏が述べるように、オバマ政権はアメリカ外交の「リセットをリセットする」かもしれない。その場合、アメリカ外交は、潜在的な敵対勢力や現在の敵を圧倒する軍事的な優位に基づかねばならない。また、オバマ政権は内政の制約を超えて行動しなければならない。第一段階のオバマ氏は健康保険と経済にかかりきりであった。第二段階のオバマ大統領は、来る中間選挙での保守派の勢いの強さを考慮すれば、内政で共和党の説得に多大な労力を割かれるかも知れない。しかし、それは無意味な言い訳にしかならない。世界の安全保障でのアメリカのリーダーシップは党利党略を超えたものである。オバマ大統領は、民主国家連盟の再強化をはかる必要がある。潜在的な敵対勢力や現在の敵がアメリカを弱いと見てしまえば、政治および安全保障環境は自由な同盟諸国とアメリカ自身の経済繁栄にとって望ましくないものになってしまうだろう。「好かれるアメリカ」など世界は必要としていない。(おわり)
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