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2010-11-02 07:40

駐露大使の一時帰国で抗議せよ

杉浦 正章  政治評論家
 菅外交にとって弱り目に祟り目のロシア大統領による北方領土視察である。中露による“日本挟撃”となったが、その原因の大半が民主党政権による“素人外交”の結果だ。足元を中露両国に読み取られているのだ。微妙な力の均衡で成り立つ領土問題に、日米関係の脆弱(ぜいじゃく)化という新要素が、決定的に作用したのだ。改めて弱肉強食の外交の世界を、首相・菅直人は思い知らされたに違いない。加えて、メドベージェフ訪問時期の判断を見誤った外務官僚の判断能力の劣化も著しいものがある。政府は抗議の意思表示として、駐露大使・河野雅治の一時帰国くらいの対抗措置をとっても当然だ。

 読売の「編集手帳」が端的に言い尽くしている。「政権交代から1年余、領土・領海を危険にさらして友人の選び方をようやく学習するとは、払った授業料が高すぎる」と指摘しているとおりだ。状況を判断するに、素人に「ど」をつけたい前首相・鳩山由紀夫による“離米外交”を、中ロがチャンスと受け取り、「結託」して領土での攻勢を仕掛けてきたとみるべきだ。普天間問題での日米関係のきしみに、まず中国が尖閣でつけ込んだ。尖閣事件後には中露首脳会談で領土問題での「結託」を確認。ロシアは日本の尖閣問題での弱腰姿勢を見て、強硬な対応を決意し、北方領土でロシアが歴代大統領も行ったことのない“暴挙”に出た、というのが一連の流れだ。国後、択捉、歯舞、色丹4島のうち国後を選んだのは、1956年の日ソ共同宣言に明記された歯舞、色丹の2島は返還するという方針を踏まえたものだ。日本に4島返還はないことを改めて強く示唆したものといえる。また日本の2島返還論を勢いづけ国論を割る思惑もあるのだろう。

 この北方領土訪問を外務省当局は完全に見誤っていたようだ。「まさかアジア太平洋経済協力会議(APEC)を控えて訪問はあるまい」という誤判断だ。メドベージェフが「近い将来必ず訪問する」と発言しているにもかかわらずである。モスクワの大使館も含めて、情報収集能力がここまで落ちたかと思える「外交劣化」である。それとも外務省は政治主導で「指示」されるまで情報収集などしなくなったのだろうか。当然対抗措置を考えるべきだろうが、弱腰外交が定着している菅政権に、何ができるか心もとない。政府首脳は「対応に苦慮している」そうだが、苦慮などしている場合か。外交において不快感を示すためにもっとも効果的な手段が、大使の本国召還である。韓国が竹島問題などで大使の一時帰国をよくやるが、日本固有の領土にどかどかと土足で入り込んできたのだから、駐日大使を呼んで抗議するくらいでお茶を濁す話ではあるまい。駐露大使の一時帰国くらいは当然だ。

 「メドベージェフに横面を叩かれながら、今月中旬のAPECの際に菅が首脳会談に応ずるのもどうかと思う」という疑問の声が外務省にもあるようだ。日露首脳会談拒否論だ。しかしこの場合はあえて会談をチャンスととらえて、日本の主張を強硬に伝えるべきだ。会談の物別れも辞すべきではない。中露両国は、場合によっては胡錦涛とメドベージェフが横浜で会談して、対日けん制で「結託」した動きに出る事も予想されるが、動ずるべきではない。胡錦涛にもメドベージェフにも堂々と領土上の主張をすべき時だ。場合によっては首脳の全体会議の場で、菅は尖閣諸島、北方領土に関して「日本固有の領土である」ことを主張をすることも考慮に入れるべきだ。大人しくしていれば、中露両国に領土問題での地歩を築かれたままとなる。弱腰外交を転換して、くぎを刺す絶好の機会だ。弱腰外交が腰抜け外交になるかどうかの境目でもある。
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