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2010-11-02 17:08

(連載)ビデオ映像限定公開は保身目的の場当たり(1)

高峰 康修  岡崎研究所特別研究員
 9月に発生した尖閣諸島沖での中国漁船と海保巡視船の衝突事件の状況を海保が撮影したビデオ映像が、ようやく限定公開された。11月1日に国会内で、衆参両院の予算委員会理事ら30人に対して、中国漁船発見から巡視船が強行接舷により停船させるまでに発生した2度の衝突場面を7分弱に編集した要約版が公開されたのである。同映像によれば、巡視船「よなくに」との衝突は、中国漁船が「よなくに」の左後方から急発進して衝突して逃走したものであり、巡視船「みずき」との衝突は、「みずき」の右側を併走中の中国漁船が急に左旋回して「みずき」の右舷に衝突・逃走したものである。中国漁船の行為の悪質性が改めて明確になったことは間違いない。

 しかし、今回の限定公開は全くナンセンスであると言わざるを得ない。貴重な外交カードとなるはずの資料がほとんど無価値なものとなってしまったのは、限定公開という形態と、あまりにも遅い公開時期の二つが理由である。

 前述の通り、中国漁船の行為は極めて悪質なものであった。これを迅速に全面公開しておけば、国際社会に対して、本件は単なる衝突事故ではなく、中国側に非がある事件であることをアピールでき、中国の海洋進出の危険性をより一層アピールすることができた。対中警戒感はビデオ映像の公開がなくても国際的に大いに高まった。もしも、早期に全面公開していれば、さらに効果的だったであろう。そして、海保の行為の正当性も示すことができた。それは海保の士気を高めることにも繋がったはずである。

 しかるに、菅政権は、対中配慮を最優先にして(もっとも当の中国もビデオ映像の公開を要求していたが)、野党からの再三の強い要求を受けて、この時期になってやっと限定公開を実現した。今頃になって公開したのでは、全面であろうが限定であろうが、国際社会に与えるインパクトはゼロに等しい。しかも限定公開ということになると、却って「日本は何か都合の悪いことを隠しているのではないか」との疑念を招きかねない。少なくとも、中国に対してそういう主張をする口実を与える可能性がある。これならば、非公開を貫いた方がまだましであったかもしれない。しかし、残されたとるべき道は一つしかない。それはやはり全面公開である。もちろん、それによって得られるものは小さいが、あらぬ疑念を招かないためには全面公開が一番良い。(つづく)
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