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2010-11-18 20:36

防衛事務次官通達は、誤った政治主導の言論封殺

高峰 康修  岡崎研究所特別研究員
 防衛省の中江事務次官が、防衛省・自衛隊の幹部に「政治的発言をする部外者を関連行事に来賓として呼ばないよう」との通達を出した。どうも、11月3日に航空自衛隊入間基地で開催された航空祭で、地元の自衛隊協力団体の代表者が「民主党政権の早期崩壊を望む」との発言をしたことがきっかけであるらしい。通達は、これを「自衛隊法に定められている自衛官による政治的行為の制限に違反したとの誤解を招く極めて不適切な発言だ」と断じている。しかし、これは、実に理屈の通らない話である。自衛隊法が定める政治的行為の制限は、あくまでも政軍関係の問題である。すなわち、制限を受けるのは自衛官である。

 「軍人が政治に容喙してはならない」というのは、当然の大原則である。しかし、今回の通達は、民間人が関連している点で、政軍関係の枠を越えてしまっている。民間人の来賓がどのような発言をしようが、自衛官の政治的行為の制限とは何の関係もない。通達は巧妙に「違反したとの誤解を招く」と言っているが、筋違いであることに変わりはない。「政治的発言をする部外者を行事に呼ぶな」というが、そんなことは実際に発言を聞いてみなければわからない。それとも、来賓として呼ぶ際に、いちいち「どういう発言をするつもりか」とチェックするというのか。それでは、言論の自由に反する。

 今回出された防衛事務次官の通達は、弁護の余地のない、とんでもない誤りだが、こんなものが発せられる根底には、民主党政権の誤った政治主導があることは間違いないであろう。以前、陸自の連隊長が鳩山由紀夫前首相の日米同盟政策を訓示で批判して、政治的圧力を受け、事実上更迭されるという一件があった。その延長線上に今回の通達はあると考えられる。要するに、自衛官からであれ、来賓であれ、政権を批判する声が出て、政権からの圧力がかかることを嫌って、先回りして過剰な規制をしいたということであろう。この通達に対して、仙石官房長官は「自衛隊員の政治的中立性が確保されなければならない。防衛相の責任の下に必要な措置がとられた」と大絶賛している。これでは、民主党のいう「政治主導」とは、批判を許さない言論封殺が本質であると断ぜざるを得ない。

 また、我が国の、文官の武官に対する優越という歪んだ形のシビリアン・コントロールの復活であるとも解釈できる。尖閣沖衝突事件を巡る海保に対する仕打ちからも分かるように、民主党政権の現場軽視あるいは蔑視が背景にあるように思われる。このことは、士気の低下につながり、我が国の安全にとって看過することができない。今回の通達は、以上のように、極めて重大な問題点を含んでいるので、厳しく追及されて然るべきであるとともに、撤回を強く要求したい。
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