国際問題 外交問題 国際政治|e-論壇「百花斉放」
ホーム  新規投稿 
検索 
お問合わせ 
2010-12-22 22:31

NPTに拘らず、日印原子力協力を推進せよ

吉田 康彦  大阪経済法科大学客員教授
 畏友・野口邦和氏が日印原子力協定に疑問を呈している。確かにNPT(核不拡散条約)体制を核廃絶に導く規範と見なすなら、NPT非加盟のインドに協力するなど、狂気の沙汰ということになる。NPT体制堅持と強化を推進してきたブッシュ前政権が、終始一貫してNPTに批判的だったインドとの協力に転じたのは、政治・外交的には、急速に影響力を強める中国に対するけん制と封じ込め、経済的には軽水炉輸出を通して国内原子力産業に活路を開くためだった。

 独自の核開発により核保有の道を歩んだインドは、同じ道を選んだパキスタンとともに、米主導のNPT体制から締め出され、NPT信仰の強い日本の常識からすれば、イラン、北朝鮮とともに国際社会の異端児ということになるが、世界最古の民主主義国を自認するインドからすれば、核保有国に核廃棄を求めないNPTは現存する最大の不平等条約であり、「NPTは核のアパルトヘイト(差別)」ということになる。インドはNPT未加盟国ではない。確信犯としての非加盟国だ。NPTが存在する限り、インドが加盟することはあり得ない。

 そもそもインドこそは、核廃絶の最初の提唱国だったのだ。インドが独自の核開発に踏み切ったのは、2度にわたる隣国中国との国境紛争の結果、インド軍が手痛い敗北を喫したことにあった。折しも米国主導で締結されたNPTは核保有国の核を既成事実として容認し、非核保有国との差別を際立たせ、固定化したのだ。それでもインドは自国の核は厳重に管理し、隣国パキスタンのように「核の闇市場」などには手を染めず、核拡散には一切関与しなかった。

 その点は、ブッシュ政権も事前に十分調査し、拡散の“前科”がないことを確認した上で、原子力器材の輸出自粛を申し合わせたロンドン・ガイドラインの改定に踏み切ったのだ。つまり、核保有国の特権を容認したNPTを規範にして廃絶を説くのは、間違いだ。核保有の現状固定を前提にしているかぎり、NPTをいくら忠実に守っても、世界が核廃絶の道を歩むことにはならないからだ。NPTは核保有国に対しては、IAEA(国際原子力機関)の査察を義務づけていない。極端にいえば、核保有国はいくらでも秘密開発ができることになる。保有核の申告すら義務づけられていない。条約上の差別を解消する動きは存在したが、保有国の特権保持の思惑の方が強く、現時点で差別は解消していない。

 結論として、日本がインドに協力せず、原子炉輸出に反対すれば、韓国、ロシア、フランスなどの他のライバル輸出国が漁夫の利を得て大もうけをするだけのことだ。2年前の洞爺湖サミット(主要国首脳会議)は、温暖化防止のために原子力推進で参加国の意見が一致したことを付け加えておこう。席上、反原発の連立与党・社会党に配慮して唯一態度を保留したドイツも、その後は推進の立場に戻っている。
お名前は本名、またはそれに準ずる自然な呼称の筆名での記載をお願いします。
下記の例を参考にして、なるべく具体的に(固有名詞歓迎)お書き下さい。
(例)会社員、公務員、自営業、団体役員、会社役員、大学教授、高校教員、大学生、医師、主婦、農業、無職 等
メールアドレスは公開されません。
ただし、各投稿者の投稿履歴は投稿時のメールアドレスにより抽出されます。
投稿記事を修正・削除する場合、本人確認のため必要となります。半角10文字以内でご記入下さい。
e-論壇投稿の際の注意事項

1.投稿はいったん管理者の元へ送信され、その確認を経てから掲載されます。
なお、管理者の判断によっては、掲載するe-論壇を『百花斉放』から他のe-論壇『議論百出』または『百家争鳴』のいずれかに振り替えることがありますので、予めご了承ください。

2.投稿された文章は、編集上の都合により、その趣旨を変えない範囲内で、改行や加除修正などの一定の編集ないし修正を施すことがありますので、予めご了承ください。

3.なお、下記に該当する投稿は、掲載をお断りすることがありますので、予めご了承ください。

(1)公序良俗に反する内容の投稿
(2)名誉や社会的信用を毀損するなど、他人に不快感や精神的な損害を与える投稿
(3)他人の知的所有権を侵害する投稿
(4)宣伝や広告に関する投稿
(5)議論を裏付ける根拠がはっきりせず、あるいは論旨が不明である投稿
(6)実質的に同工異曲の投稿が繰り返し投稿される場合
(7)管理者が掲載を不適切と判断するその他の理由のある投稿


4.なお、いったん投稿され、掲載された原稿の撤回(全部削除) は、原則として認めません。
とくに、他人のレスポンス投稿が付いたものは、以後部分的であるか、全部的であるかを問わず、いかなる削除も、修正もいっさい認めません。ただし、部分的な修正については、それを必要とする事情に特別の理由があると編集部で認定される場合は、この限りでありません。

5.投稿者は、投稿された内容及びこれに含まれる知的財産権(著作権法第21条ないし第28条に規定される権利を含む)およびその他の権利(第三者に対して再許諾する権利を含む)につき、それらをe-論壇運営者に対し無償で譲渡することを承諾し、e-論壇運営者あるいはその指定する者に対して、著作者人格権を行使しないことを承諾するものとします。

6.投稿者は、投稿された内容をその後他所において発表する場合は、その内容の出所が当e-論壇であることを明記してください。

 注意事項に同意して、投稿する
記事一覧へ戻る
公益財団法人日本国際フォーラム