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2006-08-01 11:16

北朝鮮「擁護」ではない

吉田康彦  大阪経済法科大学客員教授
 7月24日付けの上杉慶司氏投稿「国家の行く末を誤らせるな」を受けて、以下少し長くなりますが、箇条書きにして、私の立場を再度説明します。

(1)私は一度も北朝鮮を「擁護」したことはなく、「刺激したくない」と思ったこともありません。日本のメディア、言論人の大多数が北朝鮮という国家、体制、政策に批判的、というよりも無知で、かつ曲解している事実を知るに及んで、理解させ、啓蒙したいと思って発言しているのです。いくら真意を伝えたいと思ってもなかなか理解されませんが、それでも解説し、説明し、主張し続けています。「体制」を是認はしていません。私の北朝鮮理解の根底にあるのは、7回にわたる訪朝体験、党と政府の幹部との本音での対話、討論です。訪朝するたびに激論を戦わせています。大いに挑発し、刺激もしています。宋日昊・日朝国交正常化担当大使などは10年来の知人ですが、2002年9月の小泉訪朝までは、何回食い下がっても日本人拉致を認めませんでした。彼も土壇場まで知らされていなかったようです。

(2)北朝鮮を弁護も擁護もしていませんが、北東アジアの平和と安定のためには日朝国交正常化が不可欠であるという確信は10年来変わりません。核もミサイルも彼らにとって対米交渉のカードでしかなく、日本が一方的に脅威を感じて日米同盟強化⇒軍事力強化⇒核・ミサイル防衛強化に走っているのです。米国の軍産共同体、日本の軍需産業にとっては思うツボです。ブッシュ政権は「北朝鮮の脅威」を最大限に利用して在日・在韓米軍のプレゼンスの大義名分にしているのです。「北の脅威」は東アジアから始まる「不安定の弧」にとって希少価値があるのです。

(3)「北朝鮮の核は人畜無害」。12年前の小論の見出しですが、いまもそう思っています。金正日という人物はたいへん小心で臆病者のようです。米国の核戦力に怯えています。北朝鮮はいまだにノドン、テポドンに搭載できる核弾頭を保有していません。保有しているのは20-30kgのプルトニウムのみ。プルトニウムをいくら溜め込んでも爆弾にはなりません。核実験なしに核保有に至った国は過去にありません。ウラン濃縮はせいぜい小規模なパイロットプラントを建設した程度。それでも交渉カードとして最大限に使いたいので、昨年2月「核保有宣言」をしたものの、ブッシュ政権が真剣に交渉のテーブルに就いてくれない、それならばとミサイルは発射してみた、それでも「振り向いて」くれないなら、次は核実験ということにならざるを得ないでしょう。瀬戸際外交を展開しながらも、きわめて慎重に、計算しながら行動しています。今回も日本を刺激しないように、計算づくでロシア沿岸州沖に寄せて落下させたのですが、日本は過剰反応しました。

(4)日本政府がどうすべきかなど過去10年以上、繰り返し発言しています。論文も100本以上あるし、著書(『動き出した朝鮮半島』)もあります。正確に検索して下さい。現時点で言えば、小泉訪朝で約束したこと、『日朝平壌宣言』を履行することです。宣言には「日朝両国間の懸案は国交正常化のプロセスの中で解決してゆく」と謳ってあります。拉致問題は当然、「両国間の懸案」ですが、日本政府、具体的には安倍官房長官は「拉致解明なくして国交正常化なし」と交渉の「入口」に据えて正常化実現をサボタージュしています。しかも発射実験を口実に単独制裁に乗り出しました。力でねじ伏せようとして拉致問題が解決するとお思いですか。朝鮮民族の精神構造に対し、あまりにも無知蒙昧です。しかも日朝貿易は先細りの一途、今年は1億ドルを割るでしょう。

(5)拉致問題は金正日体制打倒を目的とする国内の政治勢力に乗っ取られ、利用されているのが現実です。周辺諸国(中国、韓国、ロシア)は体制変革を望んでいません。一度でも平壌市街を歩いてみれば実感できます。中国人と中国商品が街に溢れています。開城工業地帯、金剛山観光特区、南浦工業地帯などは、南北(韓国と北朝鮮)協力のモデルケースです。ロシアも南北縦断鉄道線路貫通に技術協力しています。中朝貿易は20億ドル、南北交易(お互いに外国とみなしていないので)は15億ドルに迫る勢いです。

(6)過去の発言の片言双句を並べて批判しておられるが、絡脈なしに並べられても困ります。すべてに反論はしませんが、私が拉致を否定したのは横田めぐみさんのケースだけです。めぐみさん発覚の時点で、すでに辛光洙はソウルで逮捕され、裁判にかけられ、日本人拉致を認めていました。否定しようがないではありませんか。横田めぐみさんは失踪時、13才の中学1年生。日本語の教師も勤まらず、工作員の日本人化教育もできず、いくら何でも北朝鮮工作員がそんないたいけな少女を拉致するはずがないという常識で判断したのが間違いでした。北が拉致を認めたあと、私はテレビ出演(テレビ朝日「サンデープロジェクト」)の際、横田滋・早起江夫妻に陳謝しました。それが総括です。以上。
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