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2011-02-26 09:55

(連載)米帝国の不可避的衰退と日本の持つ4つの選択肢(2)

吉田 重信  中国研究家
 第一の選択肢は、当時のギリシャがローマ帝国とともに衰退するという運命をたどったように、日本もまた、引き続き律義に米国の下僕であるかのように盲従しながら、衰退していく道を選ぶ選択肢です。外交的に身を処することに失敗したギリシャは、やがてはイスラム勢力たるトルコと、そして近世以降はゲルマン民族から派生したアングロ・サクソン系の大英帝国の支配下に置かれることになったのである。ギリシャの悲劇は、その国の経済破綻というかたちで、いまでも尾をひいている。

 第二の選択肢は、いまやユーラシア大陸の主導権を握りかねない勢いの「台頭する中国」と連携する道を選ぶ選択肢です。目下、中国は、復興・回帰しつつある「帝政ロシア」とかつての「中ソ同盟」のようなものを復活させて、これと提携関係を深めようとしている。しかし、この選択肢には、一党独裁体制と畸形的な市場経済を維持する中国がいつまで存続するか、という予測不可能な因子がある。一党独裁体制と国家計画経済のソ連はその成立後70年あまりしか存続しなかった。したがって、当面、日本が中国へ傾斜していくことは妥当ではない。

 第三の選択肢は、核武装を含む重武装をして、日米中の三角形の一極を担う形で、力の外交(Power Politics)を行う選択肢である。これは、かつて米ソ間にあって独自路線を標榜した仏のドゴール大統領の路線に倣う選択肢であるが、この選択肢は、理論的にはあり得ても、実際にはあり得ない。米国が猛反対するだけでなく、この選択肢ののリスクと負担を負うことについて国民の支持が得られるとは思えないからである。また、ドゴールのような強力な政治的指導者が必要となるが、目下の日本にはこのような指導者はいないので、選択肢としての現実性はない。

 第四の選択肢は、一方では「抗争」しつつ、他方では「協調」するという二面性をもつ米中関係を前提にして、日本がアジア太平洋情勢の安定化に資する「平和構想」の構築を目指ざす選択肢である。米中両大国の間にあって、軍事力に頼ることのできない日本としては、この第三の選択肢こそが、現実的で賢明な選択肢ではないかと考える。菅内閣が、日本経済の低迷にかこつけて、または北朝鮮の脅威を奇貨として、あるいは尖閣諸島をめぐる中国とのゴタゴタに便乗して、軍備の増強や「武器輸出三原則の見直し」などといいながら、軍需産業の強化に力を入れるなどは、もってのほかである。そうした方向に行くなら、民主党政権は、国民にとって自民党政権以上の「よりワル」な政権となる。

 いずれにせよ、日本の政治的指導者と国民は、厳しい歴史的選択を迫られている。このような現状において、従来通りの考え方から抜けられずに、呪文のように「日米同盟唯一絶対論」や「沖縄基地抑止論」などを唱える政治家や外交評論家がいる。しかし、彼らの主張の内容は、日本を米国にいっそう依存させようとするにすぎないのであり、健全な独立国家としての日本のとるべき選択肢ではない。彼らが唱えるいわゆる「抑止論」は、鳩山元総理が最近になって明らかにした通り、「うそ八百の方便」なのである。(おわり)
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