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2006-08-11 01:27

自衛隊・民間合同チームは有効ではないか

大西 健  大学生
 日本の国際平和協力のあり方について、この政策掲示板「百花斉放」でいろいろな方のご意見が発表され、活発な議論が展開されておりますので、これに関し私も意見を述べさせていただきたいと思います。まず、7月22日の「百花斉放」で島崎友江さんが提案されている「自衛隊と民間専門家の共同チームによる平和維持活動の展開」というアイデアですが、私はとてもすばらしい考えではないかと思います。

 このアイデアについては、7月30日の「百花斉放」で大川靖さんが「自衛隊と民間専門家の共同チームは機能しない」として指摘された通り、自衛隊と民間のそれぞれのメリットを損なうというデメリットが存在することは事実でしょう。しかし、JICA等の国際協力機関やNGO等の民間団体のフットワークの軽さが発揮できるのは、民間の交通インフラが機能している場合のみです。紛争地域では橋や道路が攻撃されたりして陸路での到達が不可能な地域が存在するでしょうし、かといって民間の航空機が飛びまわれるような状況ではないでしょう。となると、むしろ自前の移動手段を持った軍事組織のほうが、より迅速に移動できる状況であるといえます。紛争後の復興とは話が違いますが、昨年8月にパキスタンで発生した大地震の被災者に対する国際緊急援助活動では、JICAや国際移住機関(IOM)などの人員や物資の輸送を自衛隊が行っています。このように、自衛隊と国際協力機関の連携はすでに始まっています。もちろん、これはあくまで自然災害に対応する活動の中での協力であり、紛争後の平和維持とは別の性格のものです。しかし、物資や人員の移動に関しては、平和維持活動においても同様のメリットをもたらすといえます。

 とはいえ、紛争後の活動であるが故の問題もあります。大川さんが指摘されたもう一つのデメリットである、非武装・中立であるとの性格の喪失です。しかし、紛争後の不安定な状況の中、果たして非武装・中立の民間人であるというステータスはどれだけ身の安全の保証に役立つのでしょうか。イラクの武装勢力の中には、無差別に、容赦なく外国人を拉致、殺害したグループも存在します。このようなグループに対しては非武装・中立の民間人であることは何の意味も持ちません。むしろ格好の攻撃対象となってしまいます。中西寛氏が「JFIRコラム」で指摘されているとおり、民間人が活動できる状況ではないといえます。

 また、より一般的な国連の決議に基づく平和維持活動の場合にしても、国連指導の下合意された和平に反対するグループにとっては国連の活動そのものが中立ではない、敵対的なものに映ります。となると、本来「中立」である国連の活動に参加する民間人も中立ではない、敵対的なグループの人間と認識されてしまいます。また、政治的な意志を持った武装勢力だけでなく、混乱期には武装強盗も多発します。紛争地域には小火器があふれていて武器が簡単に手に入るうえ、武装解除が行われるとそれまで民兵だった人々が職を失い、手元にある武器を強盗に利用するケースも想定されます。これらのグループから身を守るためには自衛力が必要です。

 もちろん、まず紛争を完全に終結させ、地域を安全にしてから民間人が活動すればそれがベストですし、和平案策定に当たってもすべての勢力が完全に同意できる形で和平が締結できれば何の問題もありません。しかし、現実にはそのようにうまくことが運んだケースはなかなかありません。紛争後の地域の安定には長い時間がかかります。地域が安定してから民間の活動が始まるのでは、地域が安定するまでの長い間、その地域に住む人々が苦しみ続けなければならないことになってしまいます。なかなか状況が改善しないと、当初は国際派遣部隊に好意的だった人々も不満を抱き始め、より大きな混乱と不安定の原因になりかねません。そうである以上、多少非効率で、コストが多くかかる方法であるとはしても、地域が依然として危険な状況でありながらも復興支援を行っていく方法として、自衛力を持った軍事組織と復興のプロフェッショナルの民間専門家の共同チームは十分に機能する処方箋であると思います。

 イラクへの復興支援では自衛隊の派遣とODAを支援の両輪とするとされてきましたが、ODAの実施はなかなか軌道に乗らなかったように思います。サマーワからの要望としてよく聞かれた発電所の建設も、なかなか着手できませんでした。また、結局民間グループが直接イラクに入って活動を調整することはできず、ODAの実施は周辺国に滞在する要員が「遠隔操作」する形になっています。イラクが依然として危険である以上、自衛隊がJICAメンバーの護衛をすることはあってよかったのではないでしょうか。そうすれば、より早い段階から大規模なODAの実施が可能であったと思います。そして、共同で活動するのであれば、普段から共同行動をとることを前提にした共同訓練が行われるべきです。そのほうが、武装勢力による襲撃などの突発的な事態に直面した際により適切な対応が取れるはずです。そういう意味で、単に輸送を請け負ったりするだけではなく、より緊密に連携できる「チーム」を作ることは有益であると思います。
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