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2011-03-06 19:55

(連載)ユースバルジと中東の抗議行動 (2)

水口 章  敬愛大学国際学部教授
 シリアの場合は、シーア派の流れであるアラウィー派(約12%)が政治指導体制の中心となっており、人口の70%を占めるスンニー派の人々の中には不満を持つ人々がいる。このため、バアス党や治安関係機関が監視を強めている。そして、イランの場合は、革命防衛隊をはじめ宗教界も政治指導者層も、1979年のイラン革命体制を守る努力を続けている。ただし、ムサビ氏やカルビ氏の自由化運動に加え、若者層は20数年前の革命の精神よりも、現実の生活改善(自由化の推進)を強く求める傾向にある。これらの国々では、現在のところ市民の抗議活動は抑え込まれている。しかし、社会・経済状況がさらに悪化すれば、事態が変化するリスクは抱えている。

 第2のグループは、パレスチナ、イエメン、スーダン、イラクで、人口構成はきれいなピラミッド型をしており、高年齢層の割合が少ない。したがって、若者層が厚く、社会・経済問題の改革要求が高まると、問題解決には長期間かかる恐れがある。

 第33グループは、サウジアラビア、オマーン、バーレーン、ヨルダン、レバノンで、人口構成はピラミッド型から釣鐘型に移行しつつあると言える。やはり30歳以下の各年齢層の割合が平均して高いため、インフレ、失業問題の負の影響が懸念される。特に、サウジアラビアの東部州のシーア派住民、バーレーンのシーア派住民、ヨルダンのイスラム行動党(ムスリム同胞団系)、レバノンのヒズボラ勢力(シーア派過激派グループ)など、異質な体制批判派集団を抱える国では、国内要因のみでなく、異質集団に国外要因の働き掛けがあると、不安定リスクが高まることも考えられる。

 第4のグループは、カタル、UAE、クウェートという湾岸アラブ産油国の国々である。人口構成は第3グループ以上にピラミッド型から釣鐘型への移行が見られる。年齢層のピークはUAEとクウェートでは30~34歳の層であり、カタルは25~29歳の層である。これらの国では経済力により若者層の問題の解決が可能となっていると言えそうだ。

 以上、人口構成によって中東諸国(民主化や自由化が先行しているトルコ、イスラエルを除く)を分類してみた。この人口構成と、各国の経済状況(一人当たりのGDP、インフレ率、失業率など)や社会状況(教育水準、ソーシャルメディアの普及状況、海外留学の状況など)との関連性について考察すると、現在の社会変動の原因が見えてくる。それにより、植民地主義からの脱却や、イスラム国家の建設というイデオロギーや理論に基づいて起きた革命とは異なる、市民の政治・社会運動が浮き彫りになってくるのではと考えている。(おわり)
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