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2011-03-08 07:41

外交・安保に“浪花節”を持ち込むな

杉浦 正章  政治評論家
 法律を知っていなかった「山科のお母さん」の“焼き肉献金”の人情話は泣かせるものがある。外相辞任の前原誠司が将来もし首相になれたら、映画にでもして“紅涙”をしぼればよい。しかし、人情話と外交・安保は別だ。ことは国家の安全保障の根幹に関わる問題としてとらえる必要がある。前原は懸案の重要外交案件でこれという実績もないどころか、辞任前に行われた『文藝春秋』誌とのインタビューでは「外相レベルで領土問題や沖縄問題が前進するなどあり得ない」と“投げて”しまって、むしろ首相ポストに意欲があるとも受け取れる発言をしていた。辞めていなかったら「前原氏、ポスト菅に意欲」と報ぜられ、政権を揺るがしたに違いない。浅薄な人情論が、新聞、テレビで先行している。コメンテーターの鳥越俊太郎が「焼肉屋のオバちゃんの献金にそれほどの影響力はないはずだ。一応まあ決まりだから、と事務的に返金すれば、すむハナシだろう」述べれば、フジテレビキャスターの小倉智昭が「前原さんと焼肉屋のおばちゃんの 関係を考えると、このことで辞める必要があったの、という意見がある」といった具合だ。有力ブロック紙も「旧知の人物からの献金を声高に非難することには、どこか違和感を覚えてしまう」(中日春秋)と言う。驚いたことに朝日新聞までが3月8日付の社説で「在日外国人の献金は確かに法律に触れる。だが『外国人献金問題』と抽象化した瞬間、焼き肉屋のおばちゃんのいきさつは消し飛び、まるで国家間の諜報を論じるようだ」と論じた。

 しかしいずれも事の本質を全く理解していない。ことは浪花節の世界ではない。“諜報”は常に論じなければならないのだ。政治資金規正法で外国人の献金を規制しているのは、外国の関与や影響を防ぐための安全保障上のものであり、諸外国でも同様である。むしろ外国の規制に合わせて日本も規制した経緯がある。アメリカでは、外国からは政治献金だけでなく、企業献金も原則禁止である。イギリスでは、献金主体を選挙人名簿登録者及び現に国内で事業を行う内国会社に限定する。ドイツでは、国外政治資金の国内流入を規制、フランスでも、外国及び外国法人の政治献金は禁止。外国からの政治献金流入阻止は、国家安全保障上のキーポイントになっているのだ。善意の焼き肉屋のおばちゃんには悪いし、まずあり得ないだろうが、仮説を立てれば、もしおばちゃんが“草”として地域に植え付けられていた諜報員だったらどうするのか。外相との関係は最大のルートになる。法律はそこまで想定しているのだ。「まるで国家間の諜報を論じるようだ」と述べる朝日の社説子は、安全保障の基礎から勉強し直した方がいい。テレビのコメンテーターたちも、一か月でもいいから中東で勉強せよ。国際社会の持つ冷厳な現実が分かる。

 実際に懸念材料はある。前原はかねて北朝鮮と親密な関係を指摘されてきた。これまでに2度にわたって訪朝しており、産経によると1999年訪朝をした際は「よど号」ハイジャック犯4人とも会談。この際、通訳として同行した女性と特に親密だったとされ、2人の親密な写真は北朝鮮から流出、公安当局も入手したという。前原の外相としての実績も、尖閣事件では船長釈放を止めるどころか、米国務長官・クリントンに「近く解決する」とささやいている。ロシア大統領・メドベージェフの北方領土視察もなすすべを知っていない。普天間問題の解決に努力した形跡は見えない。それどころか冒頭挙げた3月10日発売の月刊誌に「外交はやはり首脳外交でなければ進まない。外相レベルで領土問題や沖縄問題が前進するなどあり得ない」と発言している。

 これでは日本の外交は進まない。外相・愛知揆一が沖縄返還交渉で果たした役割の例を挙げるまでもなく、回天の偉業を成し遂げた名外相はいくらでもいる。加えて前原は「解散は、日本のためになる」と、首相・菅直人と真っ向から対立する見解も述べた。要するに、菅に取って代わって首相になって、解散するという立場を鮮明にしたのだ。それが思わぬ伏兵に遭って、自ら辞任に追い込まれたのだ。狙ったが、自らずっこけた構図だ。この問題は「よみうり寸評」の言うことが一番適切だ。「外相は脇が甘いと言われても仕方がない。職務が職務だから、とりわけ厳正に守るべきルールだ」「そのうえクリーンを標榜(ひょうぼう)し、『政治とカネ』には批判の目を人一倍持っていた経緯もある。ということで前原外相が辞任した。やむを得まい」とある。物事は素直に見ることが一番大切だ。
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