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2011-03-25 07:53

日本のメディアは「自虐報道」をやめ、世界の報道に見習え

杉浦 正章  政治評論家
 少なくとも原子力安全・保安院の記者会見に出席する記者は専門家だろうと思うが、「チェルノブイリと同じだ。なぜ砂で埋めない」という質問が出たのには、びっくりした。さすがに保安院側も驚いたようだが、「馬鹿!」とは言わずに、「現実的な選択肢ではない」と紳士的な答弁をした。この程度のメディアにセンセーショナルな報道をされては、国民はたまらない。朝日新聞も3月25日付の朝刊で「局地的にはチェルノブイリ原発事故に匹敵する土壌汚染も見つかっている」と、どうしてもチェルノブイリに近づけたいようだ。「局地的」事象をトップで報ずるとは、またまた「病膏肓に至ったか」と言いたくなる。少し筆者も心配になって、日本の対応に対する世界の評価を分析したが、英国首相のキャメロンを始め皆「優」を付けているので、安心した。報道が見落としているが、米ソ冷戦時代には、チェルノブイリとは桁違いの放射能汚染をもたらした原爆実験が2000回も繰り返されているのに、人類は命脈を保った。福島原発のヨウ素放出量は、そのチェルノブイリの0.08%だ。神経質になりすぎないことだ。

 世界の見方は、まず福島原発事故制圧に向けての果敢な現場の努力に向けられた。現場の人数は、実際にはもっと多いので誤報になるが、世界の評価は「福島50(フィフティ)」が定着している。果敢さで「カミカゼ」と呼ぶメディアもある。BBCが「フクシマ50は英雄」とたたえれば、ABCは「完全に機能不全になった原発に残ることを進んで志願したヒーロー福島50」といった具合だ。確かに黒煙が発生すれば退き、汚染されているかも知れない水に漬かって、事故に立ち向かう不屈の精神は、英雄的と言う表現がぴったりだ。もちろん現場指揮者は作業員の危険回避に全力を挙げなければならないのは言うまでもない。東電や保安院の対応にも、賞賛の声が世界の専門家から上がる。ドイツZDFは専門家の「日本はこの種の災害では“唯一”の正しい方法で対応している」とする分析を紹介している。来日した米原子力規制委員会団長も「日本は事態をコントロールしている」と語った。この“コントロール”の存否が全てのカギを握るのである。キャメロンは首相・菅直人に「日本人の強靱で立派な対応に、心から敬意を表したい。必要な支援があれば、遠慮なく言ってもらいたい」と最大限の賛辞を贈っている。

 日本の自虐趣味にあふれる報道に比較して、世界は期待と賞賛と支援の声に満ちあふれているのだ。予断を許さぬ一進一退の苦闘が続いているのは確かだが、マスコミはマイナス思考でなく、プラス思考で報道を続けるべきであろう。チェルノブイリとの比較だが、チェルノブイリ原発の放射能放出量は国際原子力機関(IAEA)の分析によれば、広島に投下された原爆(リトルボーイ)の400倍であり、実態は核爆発だったのだ。始めに爆発ありきのチェルノブイリと、制御可能な福島原発を同レベルで比較して、「砂で埋めよ」と言うのは、無知をさらけ出しているのだ。復旧を断念して、チェルノブイリと同様に立ち入り禁止の「石の棺桶」を作れというのか。また1945年に初めて核実験が行われて以降、米、ソ、英、仏、中、インド、パキスタン、北朝鮮が実験を繰り返し、その回数は2000回に及ぶ。大気圏内核実験では、チェルノブイリの100倍から1000倍の放射能が毎回巻き散らされている。 中国が実験したウイグル自治区では「ガン発生率が35%も高い」といわれている。地上近くの核爆発では、土砂とチリがキノコ雲として巻き上げられ、大量の放射性降下物が発生し、地球を何周もした。

 おそらく各国の核実験では、爆心地はもちろん、遠く離れた日本でも、放射能汚染は著しいものがあったに違いないが、当時は環境汚染の思想が現在ほど一般化しておらず、ろくろく測定もされなかった。世界中で汚染野菜や魚、肉類などは、ぱくぱく食べていたに違いない。遠洋マグロ漁船「第五福竜丸」が太平洋・ マーシャル諸島のビキニ環礁で被爆した事件以後大きく取り上げられるようになったのだ。こうした歴史を見据えた上で、落ち着いた対応が必要なのだ。米国の専門家は、ネットで「福島の原発は設計が古い割には素晴らしい働きをした。観測史上5番目という巨大地震に耐えた上、原子炉の自動停止などの緊急システムも問題なく作動した。格納容器周辺のさまざまなシステムも、複数回生じた水素爆発に耐えて、おおむね無事だ。現状のまま事態が収束すれば、この状況下で原発そのものはよくやったと言うべきだろう」と客観的かつ冷静な分析をしている。日本の報道よりよほど信頼が置ける。筆者は事態はじりじりと押さえ込まれつつあると見る。恐らく東電副社長の武藤栄が24日「事態の収束にはまだ時間がかかるが、状況は安全な側に向かっている」と強調した通りであろう。ここは現場の命がけの努力に信頼を置いて、日本人は、古武士のように腹の据わった矜持をもって、底力を出すときだ。 
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