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2011-03-30 09:54

東日本大震災の意味を総括する

吉田 重信  中国研究家
 今般の東日本大震災は、日本や世界のありかた全般について、深い示唆を含んでいるように思える。その全体を総括するのは、時期尚早であることを承知のうえで、いま思うところを述べてみたい。災害は自然の摂理であり、災害を引き起こす自然の力の猛威には、人間はただこれを受容、畏敬するしかない。はるか昔に鴨長明が説いたように、「よどみに浮かぶ、うたかたの世の中」にわれわれが生きていることをあらためて思い知らされる。史上まれな困難に遭遇したときの日本人の気力が試され、その優れたマナーや勇気や愛が世界の称賛を博している。また、日本に同情してくれる友人たちが世界各地にかくも多く存在することが明らかになった。同盟国とみなされる米国だけではなく、かつて日本が支配したり、侵略したりしたアジア諸国の人々も、日本のことに心遣いをしてくれている。韓国では、かつて従軍慰安婦と呼ばれた女性までもが、祈ってくれた。胸が熱くなる思いである。

 とりわけ、これまでぎくしゃくした関係にあった中国とロシアが、震災を契機にして日本に好意的な姿勢に転じた。もしかすると、この天災を契機に、日本と両国との関係が緩和に向かうかもしれない。今後、日本は自らの復興だけではなく、争いのない平和世界の構築に励むことよって、世界の友情に答えるべきであると考える。日本の歴史の流れでは、今回の震災により、日本は、60数年まえの敗戦以来というよりも、むしろ黒船到来と明治維新以来の、試練と挑戦の時期を迎えたといえる。たんなる当面の復興のための知恵だけではなく、日本人ひとりひとりのライフスタイルや価値観の変革が求められている。当面の最大の課題として、今後、日本と世界が原発を引き続き推進するか否かが問われている。これは、われわれの子孫の運命にかかわる、人類全体の存亡にかかわる課題でもある。

 他方、震災は、2年前の政権交代により混乱していた日本の政局を、「政治的休戦」の旗印のもとに一時的にせよ安定させた。日本の議会制民主主義体制が「ねじれ現象」を克服して一歩進歩するチャンスかもしれない。いずれにせよ、いったんは瀬戸際に追い詰められた民主党政権が、震災の結果しばらくは存続しそうな気配となった。戦後の日本にとっては、政権交代は長く続いた自民党支配の終焉として歴史的意義をもったが、政権の座に着いた民主党は、多少の不安はらみつつも、災害・復興という緊急の国家的作業を推進をすることによって、欠如していた経験と訓練を積むことができるかもしれない。今後の国家再興の動きの中で、津波災害の危険性が比較的少ないと考えられる、日本海に面した西日本地域において、たとえば金沢を中心とする能登半島や新潟などの日本海側の中部の開発が重視されていくだろう。その動きは、日本とっては、太平洋側よりも、中国、朝鮮半島、ロシア、モンゴルなどをはじめとするユーラシア大陸側に、すでに経済交流の重点が移っている形勢からみて、結果的には妥当な方向であると考えることもできる。
 
 関東・首都圏の災害対策も重要な検討課題となるだろう。その過程で、首都をかつての「平安京」である京都に再び遷都させ、東京を経済・情報の中心として残すという動きも出てくるかもしれない。震災に遭遇した東北地方には、遺憾ながら人口流出現象が発生し、一部の漁村などの地域は事実上放棄されて、ゴーストタウン化することが危惧される。このような事態を防止するためには、アジア諸国からの移民を大量に受け容れるしかほかないと思われる。しかし、この問題の解決には、日本人特有の外国人への拒絶反応を克服する必要がある。今回の不幸を、日本の真の国際化への契機とすることも、考えておくべきだろう。
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