国際問題 外交問題 国際政治|e-論壇「百花斉放」
ホーム  新規投稿 
検索 
お問合わせ 
2011-04-18 15:20

大きく日本を変えるために

水口 章  敬愛大学国際学部教授
 国際通貨基金(IMF)は4月11日、短期予想を発表し、「世界経済は2015年まで年間平均4.6%の経済成長ができる」との中期見通しを示した。その原動力は、新興国の経済成長で、年6%を予想している。一方、その見通しを危うくするものとして、東日本大震災による日本経済の衰退や、世界的な物価の上昇、債務危機を挙げている。また、IMFは12日、日本の財政政策について「復興費用を見極めた上で、中期的な財政再建策を示す必要がある」と指摘している。震災、原発に加え、日本の財政危機も世界の懸念材料の1つとなっている。

 さて、人間は総じて不都合な真実と正対することが苦手である。しかし、「取り敢えず・・・」と問題を先送りし、時間が解決することに期待を寄せてばかりはいられない。政府は4月の月例経済報告において、東日本大震災によって景気が後退局面に入ることに対し、否定的な見方を示したと報じられている(4月13日付日本経済新聞)。この度の大震災について、ゴールドマン・サックスは3月14日時点で、被害総額は16兆円(阪神・淡路大震災の1.6倍)と試算している。また、国土交通省は道路、港湾で1兆5000億円、それに公共施設、住宅を加えた失われた社会資本の額は16兆~25兆円と試算している。このような被害が起きる前の経済状況はというと、2010年10月~12月の国内総生産(GDP)で前期比0.3%のマイナスであった。また今年に入っても3月1日に、日本銀行が金融市場に、1日としては過去最高となる21兆8000億円の緊急資金供給を行い、経済の底支えを行っている。

 こうした現実にもかかわらず景気後退局面の到来を否定できるのはなぜなのだろうか。仮に大震災によって調査資料が不足していたとしても、政府は国民が納得する表現にすべきだったのではないだろうか。そうでなければ、国民は不安を抱くのではないだろうか。菅政権は過去に発想の源を求めることを好み、どうも増分主義(インクリメンタリズム)の傾向が強い。それは、3.11によって多くの日本人の生活、意識が変わったことを実感していない人々が、政策形成過程に参画しているからではないかという気がする。例えば、昨日の菅首相の演説で、復興について挙げた「自然に強い地域社会、地球環境と調和したシステム、弱い人にやさしい社会」という3つの目標や、その目標達成のために「全国民の英知を結集する」との言葉は、大震災前にも使われていた机上のきれいごとに響く。

 この大震災で示された国際社会とのつながりを認識し、その社会変化に目を開いていれば、おそらく、復興構想会議のメンバーには、他国の有識者を加えることや、ソーシャル・メディアを活用して国際的なプラットフォームをつくるなど、「大きく日本を変える」ための手段が表明されたのではないだろうか。今、日本の原発問題への対応や復興は世界の注目を集めている。閉ざされた社会空間で問題を処理することは許されない。思い切って、世界空間に生きている様々な人々と信頼に基づく連帯意識を育み、協働しながら未来をつくる政策を打ち出してほしい。
お名前は本名、またはそれに準ずる自然な呼称の筆名での記載をお願いします。
下記の例を参考にして、なるべく具体的に(固有名詞歓迎)お書き下さい。
(例)会社員、公務員、自営業、団体役員、会社役員、大学教授、高校教員、大学生、医師、主婦、農業、無職 等
メールアドレスは公開されません。
ただし、各投稿者の投稿履歴は投稿時のメールアドレスにより抽出されます。
投稿記事を修正・削除する場合、本人確認のため必要となります。半角10文字以内でご記入下さい。
e-論壇投稿の際の注意事項

1.投稿はいったん管理者の元へ送信され、その確認を経てから掲載されます。
なお、管理者の判断によっては、掲載するe-論壇を『百花斉放』から他のe-論壇『議論百出』または『百家争鳴』のいずれかに振り替えることがありますので、予めご了承ください。

2.投稿された文章は、編集上の都合により、その趣旨を変えない範囲内で、改行や加除修正などの一定の編集ないし修正を施すことがありますので、予めご了承ください。

3.なお、下記に該当する投稿は、掲載をお断りすることがありますので、予めご了承ください。

(1)公序良俗に反する内容の投稿
(2)名誉や社会的信用を毀損するなど、他人に不快感や精神的な損害を与える投稿
(3)他人の知的所有権を侵害する投稿
(4)宣伝や広告に関する投稿
(5)議論を裏付ける根拠がはっきりせず、あるいは論旨が不明である投稿
(6)実質的に同工異曲の投稿が繰り返し投稿される場合
(7)管理者が掲載を不適切と判断するその他の理由のある投稿


4.なお、いったん投稿され、掲載された原稿の撤回(全部削除) は、原則として認めません。
とくに、他人のレスポンス投稿が付いたものは、以後部分的であるか、全部的であるかを問わず、いかなる削除も、修正もいっさい認めません。ただし、部分的な修正については、それを必要とする事情に特別の理由があると編集部で認定される場合は、この限りでありません。

5.投稿者は、投稿された内容及びこれに含まれる知的財産権(著作権法第21条ないし第28条に規定される権利を含む)およびその他の権利(第三者に対して再許諾する権利を含む)につき、それらをe-論壇運営者に対し無償で譲渡することを承諾し、e-論壇運営者あるいはその指定する者に対して、著作者人格権を行使しないことを承諾するものとします。

6.投稿者は、投稿された内容をその後他所において発表する場合は、その内容の出所が当e-論壇であることを明記してください。

 注意事項に同意して、投稿する
記事一覧へ戻る
公益財団法人日本国際フォーラム