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2011-06-11 10:08

(連載)分岐点をむかえたシリア問題(1)

水口 章  敬愛大学国際学部教授
 6月2日、スーダンでは南部の独立が近づく中、北部のバシール政権との間の係争地であるアビエイ地区で、北部軍の侵攻により100人近くの市民が殺害された。また、パキスタンの北西部カイバル・パクトゥンクワ州のアッパー・ティール地区で、アフガニスタンから越境してきた武装集団に警察が襲撃され、治安部隊28人、市民6人が殺害された(6月3日付AFP)。尊い人命が政治の犠牲になる現実がそこにある。そしてシリアでも、その現実が繰り広げられている。

 13歳のハムザ・ハティーブ君がシリア当局の拷問で死に至ったことへの抗議として、6月3日シリア各地で「子供の金曜日」と名付けられた市民抗議活動が展開された。今回の抗議活動は大規模なものとなり、同日の死者は70人に達した。翌4日には、前日の犠牲者となった人々の葬儀が行われ(ハマー市では10万人が参列)、再び治安部隊と武力衝突し、48人の犠牲者が出た。市民の抗議活動と葬儀が連動し政変を生んだ例としては、イラン革命が挙げられる。この時も、1978~79年にかけて同様の過程が踏まれて革命に至った。当時、パーレビ政権を支えていた秘密警察「サバク」も市民に対し強い監視力を持っていたが、体制は崩壊した。果たして、バッシャール・アサド政権下の治安機関(17の機関がある)や、軍(特に大統領の弟マヘル率いるアラウィー派のみからなる第4師団)が市民活動を抑えきれるだろうか。

 シリアの市民抗議活動は、政権側が5月31日に恩赦を発表した段階では鎮静化するかに見えていた。一部では、バッシャール・アサド大統領は「勝利宣言」を用意しているとの情報もささやかれていた。しかし、ハムザ・ハティーフ君(ダルアー出身)の遺体の映像が動画サイトのユーチューブに投稿され、フェースブックにハムザ君の追悼ページが立ち上がったことで、新たな局面を迎えた。そのポイントは、(1)アサド大統領に対する批判への共感者の増大、(2)国連事務総長や国連児童基金が市民の犠牲者数(こどもの死者30人以上)に言及、(3)トルコの南部アンタリヤでシリアの反体制派会合が開催(5月2日、なお4日にも、ブリュッセルでヨーロッパ在住のシリア反体制運動家の会合が開催)、(4)シリア国内のインターネット上で公然とレバノンのヒズブッラーの指導者ナスラッラー師への批判がなされる、などが挙げられる。

 この中で、特に注目すべきは(3)のアンタリヤでの「シリア変革会合」である。この会合は、バッシャール・アサド政権が政治犯の恩赦や「国民対話」のための委員会設置を公表した後に開催の運びとなった。開催目的は、バッシャール・アサド大統領の即時辞任の要求確認に加え、同政権打倒後の政治体制を協議することであった。同会合について6月3日付アル・ハヤート紙は、(1)抗議行動のみに焦点をあてる者、(2)体制打倒に備えた準備(過渡期)を進めたい者、(3)新国家の形態についてのビジョンを示そうとする者などの思惑が錯綜し、声明作りは難しかったことを紹介している。また、国家のあり方の基本となる政教分離問題では意見調整がつかず、声明では言及されていないとも報じている。この会合後、31名からなる「国民委員会」が選出され、「シリアの解放の行程表作成」などに当たることになった。(つづく)
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