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2011-06-12 08:37

(連載)分岐点をむかえたシリア問題(2)

水口 章  敬愛大学国際学部教授
 また、同会合参加者は、多民族(アラブ人、クルド人、アッシリア人、チェルケス人、アルメニア人)からなるシリアの国土の統一性や対等な法的権利の保障、さらには外国勢力の介入拒否を確認したとの報道もある。ここで、目を外に転じてみよう。会合の開催地となったトルコ、またイランのシリアへの関与を警戒するサウジアラビアと、シリアの反体制派との関係はどのようなものだろうか。また、会合ではシリアのムスリム同胞団の指導部メンバーのダルービー氏が演説を行っている。そのことと、6月3日にシリアのハマー(1982年にムスリム同胞団による蜂起があり、大量の犠牲者が出た地)で数万人規模のデモが実施されたこととは関係しているのだろうか。さらに、欧米諸国、特に米国の関与はどうだろうか。

 これらの疑問と関係するのは、イスラエルの存在である。6月2日、クリントン米国務長官がアサド政権に対して、「正統性はゼロではないにせよ、尽きかけている」と述べる一方、国際社会による対シリア圧力の足並みは、リビア問題程にはそろっていないと認めている。どうやら、米国は対シリア政策も、対リビア政策同様に、協調主義を取ろうとしているように見える。むしろ、オバマ政権は、中東地域の諸問題については、東地中海地域ではトルコ、湾岸地域ではサウジアラビアを中心に解決をはかればよいとの考えを持っているのではないだろうか。言い換えれば、先のオバマ大統領の新たな中東政策の発表からもわかるように、現在の中東の政治変化を前に、米国は自らが関与できる有効な政策を立案しあぐねている。

 例えば、シリアとイランがイスラエルの建国記念日(5月14日)の時のように、イスラエル占領地や各国のパレスチナ難民の抗議活動の扇動を再び行うと、イスラエルを取り巻く国際環境における緊張感は高まる。実際、本日(6月5日)、1967年の6日戦争(6月5~10日)開始日の挑発行為として、イスラエル・シリア国境にパレスチナ人が集まり始めており、シリアのテレビではイスラエル軍により2人の死者が出たと報じている。つまり、シリアの国内情勢の悪化が、イスラエルを絡めた国際紛争に転嫁される懸念がある。シリア国内でイランの支援を受けるヒズボラのナスラッラー師への批判が高まっていることも、この関連で理解できる。

 このことに鑑みれば、国際社会はエジプトでの政変時と同様に、(1)バッシャール大統領の退任(副大統領への権限移譲)、(2)憲法作成の暫定議会選出、(3)国会議員、大統領選挙実施、という民主化プロセスを実現すべく、働きかけることをはじめる時期がきたようである。そのシリアへの働きかけに関し、現在、日本の外交関係者には適任者がそろっている。しかし、今の菅政権を取り巻く国内政治環境に鑑みれば、国際的役割を果たそうとする余裕はないかもしれない。東日本大震災で多くの犠牲者を出し、国際社会から多くの支援を受けている日本だからこそ、国境を越えて、人命尊重のために動くべきだと思うのだが。(おわり)
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