国際問題 外交問題 国際政治|e-論壇「百花斉放」
ホーム  新規投稿 
検索 
お問合わせ 
2011-06-13 19:08

(連載)中国の不動産バブルが崩壊するとき(1)

河東 哲夫  元外交官
 リーマン・ブラザーズ金融危機を乗り切るために中国政府が40兆円分もの景気刺激策を発表して以来、これが投資や建設の過熱と不動産バブルを生むことを警告する声は絶えなかった。6月1日中国人民銀行も「地方政府傘下の投資会社(日本の第3セクターに相当する。中国では「プラットフォーム」、「地方融資平台」と言っている)が抱える債務額は、2010年末で約180兆円(GDPの3割強)に達した」と警告を発している。北京の不動産価格は、この1年で20%下落したといわれ、この傾向が続けば「プラットフォーム」に貸し込んでいる中国の大銀行は、軒並み多額の不良債権を抱えることになるだろう。バブル崩壊が始まったのかもしれない。

 中国経済は2000年代前半、輸出と建設の急増で経済成長を実現したが、その後貿易黒字の比重は減って、建設が経済成長の過半を引っ張る体質になっている。建設を中心とする投資は、中国GDPの約40%、即ち2兆ドル相当に及ぶ。バブルが弾けて民間企業による建設が停滞すると、その影響は並大抵のものではなくなる。そうなると、何が起きるか?中国では消費はGDPの40%以下であり、先進国に比して比重が小さい。にもかかわらず、成長率の鈍化で消費の絶対額はさらに落ち、外資の流入も直接投資、間接投資両面で激減するだろう。2009年中国の資本・金融勘定は1091億ドルの黒字になっているが(うち365億ドルが直接投資の純流入)、これはGDPの約2%に相当する。この分とそれの乗数効果分を合わせると、それだけでGDPの5%以上が失われる可能性がある。

 海外への資本逃避が増大する可能性がある。2008年中国から海外への直接投資は559億ドルだったが、これが増加して1000億ドルになると、GDPの約2%に相当し、この分とそれの乗数効果分に上記の外資流入減(1)と合わせると、GDPの10%程度が失われる可能性がある。資本が流出すると、元レートは下降しよう。これは現在でも食料品を中心に進行しているインフレを悪化させるだろう。そして、国内での生産原価がインフレで増大するため、元レートが下降するにもかかわらず、輸出は伸びないだろう。

 こうして消費も投資も輸出もだめなら、GDPの減少はかなりのものとなり得る。中央の大銀行、地方の銀行は表面上は救済されるだろうが、地方の投資会社は整理されるだろう。不良債権を引き取る会社を設立したり、返済原資確保のために地方政府が債券を発行する可能性もある。今後銀行融資は中期にわたって低調に推移することになるだろう。(つづく)

 
お名前は本名、またはそれに準ずる自然な呼称の筆名での記載をお願いします。
下記の例を参考にして、なるべく具体的に(固有名詞歓迎)お書き下さい。
(例)会社員、公務員、自営業、団体役員、会社役員、大学教授、高校教員、大学生、医師、主婦、農業、無職 等
メールアドレスは公開されません。
ただし、各投稿者の投稿履歴は投稿時のメールアドレスにより抽出されます。
投稿記事を修正・削除する場合、本人確認のため必要となります。半角10文字以内でご記入下さい。
e-論壇投稿の際の注意事項

1.投稿はいったん管理者の元へ送信され、その確認を経てから掲載されます。
なお、管理者の判断によっては、掲載するe-論壇を『百花斉放』から他のe-論壇『議論百出』または『百家争鳴』のいずれかに振り替えることがありますので、予めご了承ください。

2.投稿された文章は、編集上の都合により、その趣旨を変えない範囲内で、改行や加除修正などの一定の編集ないし修正を施すことがありますので、予めご了承ください。

3.なお、下記に該当する投稿は、掲載をお断りすることがありますので、予めご了承ください。

(1)公序良俗に反する内容の投稿
(2)名誉や社会的信用を毀損するなど、他人に不快感や精神的な損害を与える投稿
(3)他人の知的所有権を侵害する投稿
(4)宣伝や広告に関する投稿
(5)議論を裏付ける根拠がはっきりせず、あるいは論旨が不明である投稿
(6)実質的に同工異曲の投稿が繰り返し投稿される場合
(7)管理者が掲載を不適切と判断するその他の理由のある投稿


4.なお、いったん投稿され、掲載された原稿の撤回(全部削除) は、原則として認めません。
とくに、他人のレスポンス投稿が付いたものは、以後部分的であるか、全部的であるかを問わず、いかなる削除も、修正もいっさい認めません。ただし、部分的な修正については、それを必要とする事情に特別の理由があると編集部で認定される場合は、この限りでありません。

5.投稿者は、投稿された内容及びこれに含まれる知的財産権(著作権法第21条ないし第28条に規定される権利を含む)およびその他の権利(第三者に対して再許諾する権利を含む)につき、それらをe-論壇運営者に対し無償で譲渡することを承諾し、e-論壇運営者あるいはその指定する者に対して、著作者人格権を行使しないことを承諾するものとします。

6.投稿者は、投稿された内容をその後他所において発表する場合は、その内容の出所が当e-論壇であることを明記してください。

 注意事項に同意して、投稿する
記事一覧へ戻る
公益財団法人日本国際フォーラム