国際問題 外交問題 国際政治|e-論壇「百花斉放」
ホーム  新規投稿 
検索 
お問合わせ 
2011-06-14 10:22

(連載)中国の不動産バブルが崩壊するとき(2)

河東 哲夫  元外交官
 インフレ(ソ連崩壊直後のようなハイパーインフレになるほどにはマネタリー・ベースは大きくなっていないが、それでも年間20~30%のインフレはあり得る)と雇用減少によって社会不安が増大し、社会主義的平等性への回帰を求める声が高まろう。そのような運動は、現在既に重慶で開始されている。配分を求める声は、外国資本に対しても、当局及び大衆の双方から、強く向けられる可能性がある。そのような情勢が現出すれば、来年の共産党大会は延期されるだろう(と言うか、いつまでたっても開催時期が発表されないだろう)。

 間接投資が700億ドルの引き上げ、中国人自身による海外への資本逃避が1000億ドルに上るとすると、計1700億ドルの資本流出となる。だが、中国の外貨準備は2010年末で2.8兆ドルあるので、この面では中国自力での対処が可能であろう。しかし、GDPが大幅に低下して社会不安が発生した場合等は、どうするか?国際収支が大幅な赤字になるのでもなかろうから、IMF等による救済メニューでは意味がない。外資が中国での操業を続け、輸出を続けることが一番の救済策になるだろうが、そのためには治安、物流、金融等が確保される必要がある。中国経済が崩れた場合、それはどのような国際的影響を及ぼすだろうか?これを考えるには、「中国は多くの先進国にとって生産基地ではあるが、市場としてはまだこれからの存在であること」が基本となるのではないか? 例えば、ドイツは2009年輸出の4.5%を中国に向けているが、その対中貿易は大幅な赤字である(対中輸出と輸入は36:55のオーダー)。

 日本にとって中国は輸出相手No.1であるが、その多くは最終製品よりも、中国で操業する日本企業向けの機械機器と中間財の輸出なので、工場を第3国に移転すれば代替が可能である。中国の不動産バブルが崩壊すると、中国ばかりか世界までが破滅しかねないような論調が見られるが、上記のとおり、それは先進国にとってはマネージ可能なものだろう。しかし、中国の政策は保守化し、外資への対応も厳しくなって、中国経済の成長はこれから長期にわたって鈍化し、配分をめぐる社会の緊張が継続することになるだろう。

 リーマン・ブラザーズ金融危機で破綻を来たし、米経済の回復がならないうちに、中国の内需拡大がバックファイアーしたというのが基本的構図だが、これでは「開放」を認め、外資を導入することで富を築こうとしたとう小平の路線が否定されたように見える。もっと抽象的な言い方をするなら、現代中国は共産党の凝集力で急速な発展を遂げることができたが、利益配分が共産党とその関係者に偏在したために、内需不足を来たして破綻したのでないか。プラザ合意後の日本と同じく、中国も内需拡大が躓きの石となっている。(おわり)
お名前は本名、またはそれに準ずる自然な呼称の筆名での記載をお願いします。
下記の例を参考にして、なるべく具体的に(固有名詞歓迎)お書き下さい。
(例)会社員、公務員、自営業、団体役員、会社役員、大学教授、高校教員、大学生、医師、主婦、農業、無職 等
メールアドレスは公開されません。
ただし、各投稿者の投稿履歴は投稿時のメールアドレスにより抽出されます。
投稿記事を修正・削除する場合、本人確認のため必要となります。半角10文字以内でご記入下さい。
e-論壇投稿の際の注意事項

1.投稿はいったん管理者の元へ送信され、その確認を経てから掲載されます。
なお、管理者の判断によっては、掲載するe-論壇を『百花斉放』から他のe-論壇『議論百出』または『百家争鳴』のいずれかに振り替えることがありますので、予めご了承ください。

2.投稿された文章は、編集上の都合により、その趣旨を変えない範囲内で、改行や加除修正などの一定の編集ないし修正を施すことがありますので、予めご了承ください。

3.なお、下記に該当する投稿は、掲載をお断りすることがありますので、予めご了承ください。

(1)公序良俗に反する内容の投稿
(2)名誉や社会的信用を毀損するなど、他人に不快感や精神的な損害を与える投稿
(3)他人の知的所有権を侵害する投稿
(4)宣伝や広告に関する投稿
(5)議論を裏付ける根拠がはっきりせず、あるいは論旨が不明である投稿
(6)実質的に同工異曲の投稿が繰り返し投稿される場合
(7)管理者が掲載を不適切と判断するその他の理由のある投稿


4.なお、いったん投稿され、掲載された原稿の撤回(全部削除) は、原則として認めません。
とくに、他人のレスポンス投稿が付いたものは、以後部分的であるか、全部的であるかを問わず、いかなる削除も、修正もいっさい認めません。ただし、部分的な修正については、それを必要とする事情に特別の理由があると編集部で認定される場合は、この限りでありません。

5.投稿者は、投稿された内容及びこれに含まれる知的財産権(著作権法第21条ないし第28条に規定される権利を含む)およびその他の権利(第三者に対して再許諾する権利を含む)につき、それらをe-論壇運営者に対し無償で譲渡することを承諾し、e-論壇運営者あるいはその指定する者に対して、著作者人格権を行使しないことを承諾するものとします。

6.投稿者は、投稿された内容をその後他所において発表する場合は、その内容の出所が当e-論壇であることを明記してください。

 注意事項に同意して、投稿する
記事一覧へ戻る
公益財団法人日本国際フォーラム