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2011-07-04 18:19

ゲイツ国防長官の退任:大国アメリカの最後の戦士が去った

川上 高司  拓殖大学教授
 6月30日をもってロバート・ゲイツ国防長官が退任した。共和党政権の前ブッシュ大統領時代にラムズフェルド長官から引き継いだゲイツは、オバマ大統領の強い希望を受けて、続投した。まさに超党派を身をもって体現した人物である。
ゲイツ長官がどのような評価をされるかは、歴史にまかせるとしても、歴代国防長官の中でも傑出していたことは確かである。2006年、別の意味で歴代でもアクの強いラムズフェルド国防長官から国防総省を引き継いだ。当時の国防総省は軍部と民部の信頼関係が決定的に壊れ、さらにチェイニー副大統領をはじめとするネオコンがイラン攻撃へとアメリカを駆り立てていた。

 ゲイツ長官の最も大きな功績は、軍部と民部の信頼関係の回復とともに、政権のイラン攻撃を抑えたことである。イラン攻撃に反対していたマイケル・ムラン提督を統合参謀本部議長に据え、同じくイラン攻撃に反対していたウイリアム・ファロン提督を中央軍司令部司令官に任命、さらに旧知のマイク・マッコネル提督が情報長官に就いていたため「イランの脅威はない」というNational Intelligence Estimate(NIE)を2007年に発表して、イラン攻撃の抑止に成功した。

 さらにゲイツ長官は、アメリカの外交政策を軌道修正した。政権からネオコンを駆逐し、国務省との信頼関係も構築した。当時のライス長官とは親しくし、現在のクリントン長官とも政権スタート以来どんなに忙しくても週に1度は会合を持ち続けてきた。そして現実の世界と向き合い、もはやアメリカは世界で唯一の大国ではないし、世界の警察官であり続けることはできない、とより現実的な外交政策へとアメリカを導いた。

 もっともゲイツ長官自身は「自分の人生のほとんどの間は、アメリカはずっと大国だった」のであり、「大国であり続けて欲しいと願っている」という。だが、「これ以上世界に軍を展開することが、今のアメリカの身の丈にあっているかというと、・・・たぶん違う」という。現実主義者は現実を曲げられない、だからこそ「普通の国になったアメリカには耐えられない自分」が引退するしかないのだ、と本音を語る。ゲイツは「大国アメリカ」の最後の生き残り戦士だった。強者が去り、大国の時代が終わりを告げたといえよう。
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