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2011-07-13 07:29

不信任案再提出の「奇策」を分析する

杉浦 正章  政治評論家
 ついにに短歌や漢文の名言が引き合いに出され、袋小路の「菅降ろし」が“情緒”に訴えられるまでに至った。「かかるとき、かかる首相をいただきて、かかる目に遭う日本の不幸」。俳人・長谷川櫂が短歌を作るとは知らなかったが、7月12日の衆院特別委員会で自民党の谷公一が披露した。一方、経産相・海江田万里は老子を持ち出し、「敢えて天下の先とならず」と、首相・菅直人を皮肉った。人の先頭に立たない方が長として仰がれることを意味する。原発再稼働で菅がしゃしゃり出て、はしごを外された不満感の表出だ。その「かかる首相」の居座りに、「奇策」が語られ始めた。一事不再議とされてきた「内閣不信任案」の再提出だ。国会は男を女に変える以外は何でも出来るのだ。

 不信任案再提出は6月2日の否決直後からささやかれていたが、ここに来て自民党政調会長・石破茂と参院議長・西岡武夫が提唱して、いちがいに机上の空論とは言えなくなった。まず共通点は、不信任案再提出が一事不再議に当たらないという見解だ。石破は提出可能な根拠について「6月2日以来新たな事態が生じ、前回とは状況が大きく変化している。多くの議員が退陣表明と受け止めた菅首相の発言は、民法的に言えば詐欺で、前回とは別の提案理由が存在する。また6月2日と今では菅内閣そのものが改造しているため、内閣の変質にあたる」としている。西岡は自らの論文で「同じ会期の国会で不信任決議案は、1度しか提出できないというのは俗論だ。不信任の理由と不信任決議案の提出者が異なれば、今国会にもう一度、菅内閣不信任決議案は提出できる」と同様の指摘をしている。一院の議長の見方だから、法制局の見解を経ているものだろう。

 その具体的手法について、石破も、西岡も、民主党の判断を最重要視している。西岡は「即刻、民主党から衆議院で菅内閣不信任決議案を、参議院で菅内閣総理大臣問責決議案を同日に提出すること」としている。一方石破も「今国会中に緊急に必要な法案や予算を修正を加えて成立させたとして、なお菅総理が居座ったとき、この不信任案再提出は必ず現実味を帯びるはずだ。その時こそ民主党議員の真価が問われる」と、民主党側に球を投げている。なぜ民主党の出方が重要かと言えば、野党が提出して民主党の同調を誘う方式は失敗しており、民主党が先行しない限り信用されず、野党単独の提出は不可能に等しいからだ。

 西岡提案のポイントは、不信任案と問責決議案の同時提出だ。可決が確実視される参院のムードを衆院に伝搬させる相乗効果を狙ったものだろう。しかし、西岡の奇策は菅の出方によって民主党の対応に差が出る。西岡によると「政治判断が狂気と思われかねない」菅が、不信任案可決を受けて、おとなしく内閣総辞職すればよいが、「狂気の破れかぶれ解散」に打って出ようとする場合は、別だ。今解散すれば、政権交代は確実だろう。筆者の分析では民主党議席は激減して、100議席に達しないどころか、70~80議席にとどまる可能性すらある。その危険に民主党が乗るかどうかだ。むしろおじけづく可能性の方が大きい。

 しかし、政治は“弾み”であり、菅が退陣の条件とする3法案が成立しても居座りを続けるようなケースでは、西岡・石破構想は十分成り立ち得る、と見るべきだろう。手詰まり状態の菅降ろしのなかで「不信任案再提出」は、幹事長・岡田克也の「代表選挙先行」の奇策、前外相・前原誠司の「代表経験者結束辞任要求」の奇策と共に“3大奇策”の1つであるとも言えよう。西岡は「私は、首相交代に必要な時間は、菅首相が居座ることによる壮大な時間の浪費に比べれば、微々たるものと考えている」と述べているが、いまや菅の存在自体が国益を毀損しており、ある程度の政治空白は確かにやむを得ないだろう。もう一つ長谷川の短歌を紹介する。「おどおどと、首相出てきて、おどおどと、何事かいひて画面より消ゆ」と、最近の菅を独特の感性で言い当てている。まさに野垂れ死にの哀れさまで感じさせる今日この頃だ。
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